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特に行き先も決めず、フラフラと歩いて入りやすそうな店を探す。
少し歩いたところで、シンプルな店構えの居酒屋に辿り着く。酒を飲むつもりはないが、店前に置かれたセンスの良いメニューボードを見ると、普通の飯もありそうだ。店内も混んではいなさそう。
そう思い、手動のスライド式の扉を開けた瞬間……ドンッと何かが前からぶつかってきて、同時にカシャンという控えめな音が耳に入ってきた。
なんなんだいきなり……そう思ったが、その思いは口に出すことが出来ず、代わりに、ぶつかってきたものの正体に目を向け「七瀬さん?」と声をかけてしまう。
そう。あの時の、彼女だった。
しかし……
彼女はキッとこちらを睨み上げ、眉間に皺を寄せて俺に向かってこう言い放った。
「あなた、誰ですか? 私はあなたの事なんて知りません。失礼します」
そして「どいて」と俺を軽く押しのけた。
……三日前に挨拶に行ったばかりの俺を覚えていないだと……?
いや、もしかしたら覚えているのかもしれない。だがあえて、知らないふりをして冷たく……?
更には自分がいきなりぶつかってきた癖に、どいてときたもんだ。
……最高かよ。
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