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「お疲れ様です。これ……」
そのまま経理部へ来た俺は、先日会った経理部の部長に資料を手渡した。そう。俺は、仕事に来たのだ。断じてストーカーではない。
「すみません、わざわざ足を運ばせてしまって」
部長はやけに恐縮した様子だったが、困ったようにそれに返す。
「いえ、とんでもない。デスクワークばかりだと、身体が鈍りますから」
フッと微笑むと、背後から小声でキャーという声がいくつか聞こえてくる。
……キマった。完全に、キマった。仕事してますよアピールと爽やかイケメンアピール。注目されている。顔だけは良いからな。七瀬夏美は見ているだろうか。
振り向いて先ほどチラリと窺った時に彼女が座っていたデスクへと顔を向ける。……が。
そこに彼女の姿はなかった。
居ねえし……。
「じゃ、僕はこれで」と、部長に声をかけ足早に踵を返す。
「お疲れ様ですぅ。昨日はどうも」
途中いた女達数人に声をかけられたが、それどころではない。
「昨日? あぁ。あの時の……」
どうやら昨日彼女との2度目の再開を果たしたあの店で、食事中に声をかけてきた3人だったらしい。
顔、全く覚えてなかった。彼女と同じ部署だったのか。ちょうど良い。
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