蛇と体温

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蛇と体温

授業終了の号令と共に、椅子を動かすがたがたという音と話し声が教室を満たす。生徒達はリュックを肩に掛けながらいくつかのグループに分かれ、開放感を撒き散らしながらクラスのドアをくぐり抜けていく。埃臭さの混じったストーブの匂いと温度の波を頬に感じる。僕は教室の隅の机でゆったりと帰り支度をする友人の元へ向かった。    へび、とクラスメイトは彼のことを呼んだ。見た目が蛇と似ているから、だとか蛇柄を身に纏っているからといった理由からではない。彼の苗字が「錦」であることと、彼が蛇に対し強い興味を抱いていることを由縁とするあだ名だった。もともとはにしきへび、と呼ばれていたが、いつからか長ったらしく呼ぶのが面倒になりへびと呼ばれることになったようだ。 「帰ろうか」  と、彼は細く青白い首をさすりながら、口角を穏やかに上げて言った。教室を温めるストーブの電源ボタンに手を伸ばす彼の腕もまた、青白く、細かった。へびは典型的な文化系、といった風貌の男だ。風が吹けば飛んでしまいそう、押したら折れそうだなんて、体育会系の部活の生徒から言われている場面を僕はよく目にする。彼はいつも、そういった類の言葉に対し、穏やかでどこか悟ったような笑みを浮かべるだけだった。
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