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「夏休み明けてからずいぶんと会長に馴れ馴れしくなりましたよね、見てればわかります」
まさか他人にさっぱり関心のなさそうなニコが人間関係、それも生徒会内での先輩同士の色恋沙汰に口を挟んでくるなんて、ニシキはもちろんニノマエにも想像すらできていなかった。
「そそそそれがなんの関係って」
「往生際が悪いですね」
明らかに視線をキョドらせながら震え声で誤魔化そうとするニシキにピシャリと言い放ったニコは、まるで睨むように上目遣いでニシキを見るとわざとらしく大きな溜息を吐く。
「先輩が会長に好意を抱いてるのは傍で見てれば丸わかりですよ」
「お、おお……マジかー」
ニシキはこの世の終わりのような感嘆の呻きを漏らしながらちらりとニノマエに視線を向けたが、彼女はこともなげに書類へ視線を落とした。
ここまで恋愛事に関して圧倒的存在感を放っていたニノマエだが、実際のところ彼女のほうがむしろひとの心の機微などは苦手なのだ。その保証など無きに等しいものだと、ニシキは早めに気付いておくべきだったろう。
「当然じゃないですか。先輩は僕のこと路傍の石ころだとでも思ってたんでしょうけど、生憎とそうじゃないんですよ。僕は……」
言いかけて彼はやはりちらりとニノマエへ視線を向ける。ニシキもつられてそちらを見た。まあ生徒会に限らず生来チラ見されることの多いニノマエは小さく溜息を吐いて手を止めるとふたりの視線を受け止めた。
「ああ、私のことはお構いなくどうぞ。ふたりの情緒にはまったく興味ないけれど生徒会の人間関係は知っておいたほうがたぶんお互いのためになるでしょ? 黙って聞いてるから好きなように続けて頂戴」
「わ、わかりました。それでは……」
彼女のあまりの言い草に一瞬怯んだニコだったが、気を取り直してニシキへ向き直る。
「ニシキ先輩は別にニカイドウ先輩と付き合ってるわけじゃありませんよね?」
「え、え? ああ、まあ……そう……だね、うん」
付き合っているのかいないのか。そう言われれば付き合っていない、と答える他ない。もうあとは条件として出されたニカイドウが恋するだけの時間を待つだけで実質ほぼ交際しているようなものだが、現時点では付き合っていない。
「じゃあ僕がニカイドウ先輩に告白しても構いませんよね」
「え、うんまあ、そ……いや構うだろっつーかそもそもなんで俺に報告すんだよ」
つい流れで肯定してしまいそうになったが我に返って突っ込む。
「出し抜かれたとか後からグズグズ言われると面倒くさいので」
「俺そういう目で見られてんの!? ねえニノマエちゃん!?」
ショックのあまり勢いよくニノマエに振ってしまったニシキだったが、彼女はちらりと一瞬視線を上げてすぐに書類に視線を戻す。
「今って私の感想聞いてる場合じゃないと思いますけど」
辛辣だったがその通りだ。ニシキは呻きながらニコへ向き直った。
「告白、するのか?」
恐る恐る聞く声が少し震えている。
「ええ、しますね」
ニコが黒縁眼鏡をくいっと押し上げて返した。
まったく余談だが生徒会で眼鏡をかけていないのはニシキだけだった。
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