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そうして、文化祭の日はやってきた。
『モンタギュー家の一人息子ロミオ。彼は遊び半分で忍び込んだキャピュレット家のパーティで彼女と出会います。そう、運命のひとジュリエットとの出会いを!』
舞台中央でモブ役に囲まれつつひとりスポットライトを浴びるドレス姿のニカイドウ。演劇は素人のはずだがずいぶんとサマになっている。
逆にロミオや主要な人物がスポットライトを浴びることはなく誰が誰なのかほとんどわからないままだ。
『出会ってしまったふたりはたちまち恋に落ち、密かに結婚式を挙げて既成事実を作ってしまおうと知人の修道僧ロレンスの元へと向かいます』
ときどき起こる観客席のざわめきをよそに劇は淡々と進んでいく。
『ロレンスの元へ訪れたジュリエット、しかしここに来て大変なことが起こってしまいました』
異様な雰囲気のなか、場面が変わりスポットライトを浴びたのはニカイドウと、なんと修道僧姿のニシキだった。
『なんということでしょう! ひとの口に戸は立てられない。どこからともなく結婚式の話を聞きつけた男女が我こそ正統なロミオなるぞとロレンスの庵へ駆けつけてしまったのです!』
ナレーションと共に舞台衣装に身を包んだ男女がぞろぞろと舞台へ上がってきた。
そう、男女問わず総勢二十人。ロミオを希望した定員一杯の全員がそこにいた。
「くそ……なんだよこれ……」
そのなかに紛れているニコが吐き捨てるように呟く。
ロミオ役に応募することでニシキに選択を迫っていたはずのニコは、逆にニシキの台本によって“ロミオの座を奪いあう男女のひとり”に押し込まれてしまった。
しかも肝心のニシキはロミオとしてニコと競うのではなく、ロレンス役としてしれっと登壇している。
唖然としているのはなにもニコだけではない。ロミオを希望して参加した他の十九人も同様だ。
ロレンスに扮したニシキが大仰に手を広げて告げる。
「よくぞ集ったロミオを目指す猛者たちよ! 今から私の言う宝物のうちからひとつを手に入れてジュリエットに捧げるがよい!! さすれば私が責任を持って彼女との結婚式を挙げてしんぜようぞ!」
堂に入った声でニシキが叫ぶように宣言し、これが答えだとばかりに明らかにニコへ視線を向けてニタリと笑う。
「さあ本当の幕があがったぜニコちゃん」
定番の古典恋愛悲劇だと思われた舞台は突如として妨害付きアスレチックを強いる肉体系バラエティへと変貌を遂げた。
平均台の上を歩かされ、メイド長に扮したニノマエから大量のお手玉を投げつけられ、傾斜のキツい斜面を駆けあがらされ、テレビで見たような大道具があれやこれやと出てきてはロミオたちの行く手を阻む。
集ったロミオたちは次々と脱落していき、最後には五人しか残っていなかった。
しかしそのなかにはニコの姿もある。
あまり運動の得意なニコではなかったが、もはや意地だった。なにがあってもロミオの座を勝ち取ってニシキの鼻を明かすという強い意志が彼を突き動かしていた。
数々の妨害を乗り越えて生き残ったロミオたちはジュリエットとの逢引きシーンへと移っていく。
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