怪人ニシキの権謀術策

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 夏が過ぎて秋になるとこの学校では文化祭の季節だ。各クラス、部活、委員会などから企画書を受け取った生徒会は内容の精査に大忙しだった。 「図書委員会はメイド喫茶。クラシカルメイドスタイルでドリンクは地元の喫茶店から応援、スイーツは家庭科部から融通。まあプロに任せときゃ間違いは無いだろうがどーなんだこれ」  書類を読み上げる赤毛の副会長が不可解な声を上げる。 「喫茶店からの応援の件は聞いてるから問題ないよ。先生方も私から説明して承知されてる。スイーツは生徒の間で話が出来てるなら問題ないんじゃないかな? いかにも生徒主導という感じでいいじゃないか」  彼の後ろから書類を覗き込んでいる生徒会長が言うと、副会長も小さく頷く。 「ならいいか。次、プロレス同好会の、なんだこれ。空前絶後!一年女子最強決定戦だって。プロ同に一年女子いたっけ?」  その言葉には会計の一年男子生徒が顔を上げて答える。 「それの参加者どっちも帰宅部ですよ。二年のスワ先輩が声かけてるとこ見ました」 「そうなんだ……」  ふたりは意外そうな顔を向けて首を捻る。 「うーん、ちゃんとプロレスやってない帰宅部の子がリングに上がって大丈夫なのかな」  会計の彼が首を横に振った。 「言っときますけどそれ、柔道部クビになったムコウが出ますよ」 「ムコウって、スポーツ特待生“だった”あいつ?」 「ええ、入学二ヶ月でバッキバキに怪我人出して退部になった彼女です」  それまで黙っていた書記の少女が初めて口を開いた。 「私の知ってる範囲だと、喧嘩で補導歴三回のタカドノ姉が参加すると聞いています」  副会長が首を傾げる。 「一年なのに姉?」 「双子の妹さんが在学してるので。妹さんは奇しくも今話題にあった家庭科部だそうですよ」 「ああ、なるほど。……ともあれ、だ」  ふたりの言葉に会長と副会長が顔を見合わせる。 「これは……ダメだな」 「生徒の積極的な企画提案にダメ出しするのは生徒会長として大変忍びないけれども、流血沙汰不可避の企画はさすがに通せないねえ」 「だよなー。プロ同は俺がいこうか?」  立ち上がりかけた副会長の肩をぽんと叩いて座り直させる。 「いや、私が行くよ。期日は押してきてるし、もしその場で代案が出るなら決定権のある人間のほうが良いだろう」  彼女はにこやかに言って周りへも視線を向ける。 「そんなわけでニノマエさんとニコくんはニシキくんのサポートよろしく。終わったら先に上がって貰って構わないからね! それじゃアディオス!」  生徒会長のニカイドウは茶目っ気たっぷりに敬礼しつつウィンクすると軽い足取りで生徒会室を出て行った。
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