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杉崎みどり、29歳、バツ2。
1回目も2回目もダンナの暴力が原因で離婚した、ということにしている。
その方が同情してもらえるし、波瀾万丈っぽくてカッコいいからだ。
暴力といっても、2回目のダンナと言い合いになった時に1度だけ頬を平手打ちされただけで、1回目のダンナに至っては結婚してからお互いに肌が触れ合った記憶すらないので、なぜ結婚したのか今でも不思議だ。
離婚する際に、弁護士も立ててみたりした。
「弁護士立ててるんですよ」
って言ったら大概の人は驚いてくれるから気分が良かった。
私は暴力を振るわれた男運のない可哀想な女なのだ。
しかもバツがついた女はモテるらしい。
そんな都市伝説も常日頃わたしをウキウキさせた。
昔から結構モテてきた。
告白された数なんて覚えてないよって他人には言うことにしてるけど、具体的には3人だ。
見た目がタイプだと言ってきたのが2人、あとの1人は性格や趣味がどうのこうの言っていた。
ワンナイトラブには大人の雰囲気がある。
しかも何人かの友達がやっているというのを聞いてやってみたくなったので、酔ったふりして2回ほどやってみたが、思っていたほどドキドキしなかったし、気持ち良くもなかった。
ただ低ランクの処女の女に自慢はできた。
私は完全に美人側の部類だ。
たとえモデルを目指していたとしてもトントン拍子で良い所までは行けただろう。
自分では広瀬すずに似ていると思っている。他人からも何度も言われた事があると言う事にしているが、具体的には1人だ。
不細工な奴らは、よくそんな顔で生きているなと思う。私がそんな顔なら絶対に耐えられない。今すぐ整形する。
「おはようございま〜す」
さぁ、美人が出勤してきたよ不細工ども。色めき立ちなさい。
どけどけ、美人のお通りだぞ。
「細野さ〜ん、なんかお肉食べたいな〜」
細野さんは、この会社のいわゆる裏番長だ。
役職は何も付いていないが、顔の広さと、放たれるヤクザのオーラによって会社の内部を取り仕切っている。
この会社で上手くやっていくには彼に気に入られるのが1番であり、逆に嫌われれば村八分の目に遭う。
そういう人を見極める能力が私にはある。
「お前はほんま上手やなぁ〜、叙々苑でええんか?」
ニコニコしている細野さん。
私が細野さんと親しくしているのを周りの人間は羨ましそうに見ている。できるもんならやってみろ。まあ、無理やろね。
私だからこのポジションにいられるのだ。
細野さんと食事に行く時はたいがい取り巻きの何人かがくっついてくるが、最後には私と2人きりになってホテルへ行く。
あの細野さんが私を求めてくれるというだけで優越感に浸れる。私と同じぐらいのレベルの女が会社にいるのはいるけど細野さんのタイプじゃない。細野さんは私みたいなキレイめのクレバーな女が好きなのだ。
細野さんのケツの穴はとても汚い。
でも私はしっかり舐める。だって細野さんはソコが一番好きだから。
細野さんは、私と行為をする1週間前から下半身を洗わないんだと、ガハハハハと笑いながら教えてくれた。
細野さんがそういうプレイが好きだという事は限られた人間しか知らない。
嬉しい。
最近、私と感性がよく似た東村という後輩とよくつるんでいる。
彼女といるとまるで地元の友達といるように心地良い。そして不細工ってところがパーフェクト。
「会社ではマジメに黙々とやってるだけやったらあかんで。その点、私達はちゃんと自分の意見を言えるやろ?そういう人間が上にあがんねん」
先輩風を吹かせてみる。
「なるほどです!そういえば経理の篠崎さんって社歴長いのにめっちゃ要領悪いですよね」
「ていうかデブの時点で人間失格やろ」
2人で大笑い。
東村が細野さんとホテルに行ったというウワサを耳にした。
どうやら確かな情報らしい。
東村を遠くから睨む。
視線を感じてコッチを向く寸前で逸らす。
何度かやる。
「杉崎さん、この資料はここでよかったですよね?」
いつもは「みどりさん」と呼ぶくせに異変を感じてよそよそしい。
とりあえず仕事の話をして反応が見たいんだろう。
「あん」
口を開けっ放しで、うん、と言う。
うん、そこでいいよ。と笑顔で言ってほしいんだろ。
誰が言うか頬骨怪人が。
その後も冷たくあしらっていたら、東村はそれからパッタリ寄ってこなくなった。
せいせいする。
細野さんが複数の女性と関係を持っている事は知っている。
しかし会社の人間は私だけだった。
なぜ頬骨に手を出したのか。
細野さんに直接聞くしかない。
「みどり!もうちょい足広げてくれるか?」
私はホテルの一室で、手足をベッドにくくり付けられて股を開いている。
1ヶ月前から下半身を洗わないでほしいと頼まれていたので自分でも吐き気がするほどの臭いが部屋に充満している。
細野さんは少し離れて、椅子に座ってニヤニヤしながら観察している。
「お〜い、ええぞ〜」
細野さんが誰かを呼ぶ。
ゾロゾロと部屋に入ってくる知らない男達。
えっなに?
男達が私に群がってきた所までは覚えているが、そのあとの事は記憶から消す事にしたので、細野さんに質問するのも忘れていた。
今度こそ幸せな結婚がしたいと思っている。
3度目の正直だ。
子供だって欲しい。
周りの友達はみんな子供がいるから。
「毎日子供の事で1日終わるわ〜」
って結婚もしてない奴に言ってやりたい。
インスタに子供と一緒の写真を載せてイイねを貰いたい。
近頃、コロナの影響で飲み会が出来なくなり、「オンライン合コン」というものが流行っているらしい。
リモート会議のようにパソコンの画面に初対面の男女が何分割かされて映し出され、好き好きに喋る。
気になる人がいたらコッソリその人だけにハートマークを送れるという裏ワザもあるらしい。
話のタネにもなるし面白そうだ。
こんなものに参加してくる奴らは大体が50点以下の不細工ばかりだろうから、私ぐらいのレベルが参加すれば男性陣が集中してしまうかもしれない。
くっくっく。
「こんにちわ~」
「こんにちわ〜」
「ど〜も〜」
アクセスした順番で次々にパソコンの画面に映し出されていく男女。
男5人、女5人がランダムに画面に配置される。定員は4人〜10人だ。
私は右下の角にいる。
素早く全員の顔を確認。
やはり予想通り50点以下ばっかりだ。
私だけが浮いてしまっている。
途中退席をするには最低でも30分は参加しないといけないというルールがあるので、仕方なくとどまる。
右上の方の男がイキって場を回しだす。
オレ男前やし喋りもできるで!というオーラを出しているが、吊り目の子猿顔で、人を小馬鹿にした喋り方が腹が立つ。
真ん中にいる目つきの悪いデブ女、この女を中央に配置したシステムはどうかしてるぞ。
意を決して会話に入ってきた左下の男、ハゲとるやないか!
ちょうど30分で一言も発することなく退席ボタンを押した。
そのあとは開始直後に全員の顔を確認して、めぼしい男がいなければ、腹が立つのでパソコン自体の電源を即刻消す、という事を繰り返した。
何回やったかなんて覚えていない。
だが一向に当たりがでない。
何回目かで東村が出た。
うわっ!
慌てて顔を避けながら電源を切る。
向こうは気付いただろうか?
まあ良い。
私はただの冷やかしだが、アイツはガッツリやっているのだろう。
せいぜい30点ぐらいの男とくっつけばいい。
入会してから1週間ほど経った頃、やっと念願の当たりが出た。
顔は申し分ない。あとは趣味と性格が合うか。
「えっと、じゃあ僕が司会みたいなので、まず僕から順番に自己紹介していきますね、名前は佐藤秀夫です、歳は‥‥」
消極的な人間ばかりが選出されると、話が前に進まないという事が多々あった為、いちばん初めに司会役が強制的に割り振られるようになった。
「青野周平です。28です。システムエンジニアをしてます。」
シュウちゃんか。SEなら年収も良いはずだ。
絶対に捕まえる。
ハートマークを連打で送り続ける。
気付いて笑顔を見せるシュウちゃん。
その八重歯に完全に心を持っていかれる。
その後あからさまな一点集中。会話への割り込み。話の腰を折る。ハートマークの連打。などがマナー違反として他のメンバーの目に余り、通告される。元々、すぐに退席を繰り返す者として要注意人物に指定されており、今回の事がキッカケで「出入り禁止」の最も重い処分が下され、今後いっさい「オンライン合コン」には参加できなくなった。
当然、運営に抗議の電話。
「お前ら客を何やと思っとんのじゃボケぇ!!こっちは金払っとんねんぞ!!」
聞き覚えのある罵詈雑言をこれでもかと浴びせてやった。
10日連続で空き時間さえあればかけ続けたが、怒りは収まらなかった。
電話を対応していたオペレーターの女は心が病んで辞めたらしい。
結局、入会時に払った600円が返ってきただけだった。
細野さんは定年になり、65までを惰性で働くようになってから徐々に勢力を失っていき、ただの置き物のような存在になってからはケツの穴を舐め合う事もなくなった。
その後、何人かの男とくっ付いたり離れたりを繰り返し、気が付けば、この日、45回目のバースデーを肥溜めで迎える。
なぜ肥溜めなのかを説明するのは、もう面倒くさいので省略させてもらう。
2年ぶりぐらいに細野さんとバッタリ再開した。近くのコンビニの車止めに2人で座りながらタバコをふかした。
「細野さ~ん、なんで私って男運ないんですかね」
「そらおまえが2点の女やからやんけ!」
ガハハハハハハハ!!
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