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「私なんか…どうして羨ましいって思うの?」
「だって、隆ちゃん、DMで言ってたじゃない。カミングアウトした人がいるって。それって、ホントは凄い事なのよ?」
「…………そうよね…」
「ねえ、誰にカミングアウトしたの?意中の彼は、知らないんでしょ?」
オトちゃんには、好きな人がいる事、その人と同じ職場で働けている事を自身の喜びとしている事だけは、伝えてあった。
「まず…一番最初に話したのは…前の職場の先輩だったかな」
「前の職場?」
「うん。あのね、今は健康器具店に勤めてるんだけど、それまでは一時、土木関係のお仕事してたの。その時の先輩」
「そうだったんだ。それって、男の人?」
私は頷いた。
「良いなあ、そういうのってさ、意外と男の人のが頭固いんだよ」
「そうなのよね。でも、その人…民夫さんって言うんだけど、民夫さんはね、分かってくれた。実を言うと、今の職場に勤めたらって後押ししてくれたのも、民夫さんだったの」
「ええっ、マジ?凄い良い人だね」
「ええ、ええ。私、それまで誰にも自分の性癖の事言えなくて…民夫さんに言う時も緊張して吐きそうだったけど、民夫さんは分かってくれたの。
でも、民夫さんは普通に女の人が恋愛対象だから、私の気持ち、芯から分かる訳じゃないけど、努力って言うのかな…分かろうと努力したい、って…」
「そうなんだ…正直な人だね」
「そうなの。民夫さんが居なかったら、私…もっと殻に閉じこもってたわ。
だって、それまで、私の事分かろうとしてくれる人なんていなかったから」
「そうよ、私達はいつも<例外>的な存在で、嫌がられるか、腫れ物に触るような扱いを受けるしかなかった。
でも、本当は、ただ普通に恋愛トークしたり、愚痴こぼしたり、そういう事したいだけなのよね。
だって、誰かを好きになったって意味では、男でも女でも同じ事でしょう?」
「うん……私って、周りに恵まれてるんだわ、きっと」
「そうね…他には誰か知ってる人、居るの?」
「あとはね…仲良くしてる女の子とか…」
「ああ、女性の方が言いやすいよね。そういうのに偏見持ってない人のが多いし」
「女性って言うか…まだ、小学生の子なの」
「えっ、小学生?そんな小さい子が、私達の事理解できるの?」
「うーん…よく分からないけど、その子が家に遊びに来たとき、私、うっかり賢さんの写真を隠すのを忘れちゃってて。で、図らずもバレちゃったのよ」
「そういう事か。それは、ハプニングに近いものなのかな」
「うん。初めはどうしようって思ったけど………
そう、その子が言ってたのよ。人を好きになるって事に、男女の違いはない、って」
「そうなんだ…頭の良い子ね」
「っていうか、彼女も人知れず敵わない恋に悩んでいるから。
だから、同じ女子として、通ずる部分があったんじゃないのかな」
「そっか…
でもさ、中々言える様で言えないセリフだよ、それ?私、その子と会った事も喋った事も無いけど、きっと彼女の恋は成就するわ。だって、素敵な子だもの」
「そうね…そう願ってる。あとね、その子にお兄さんって言う子もとっても素敵な子なの。まだ小6なんだけど、とても頭が良くて………
未だに面と向かって話すと緊張しちゃうんだけど」
「なあに、それ。凄くない?どんな子よ」
「とにかくね、物凄く頭脳明晰なの。でも、それだけじゃなくて、心は松岡〇造並みに熱いって言うか…」
「えぇ?そんな漫画の中の人みたいな子、ホントに居る?隆ちゃん、話盛ってない?」
「嘘じゃないのよ。彼にはきちんと話したことないけど、多分私の挙動から何となく感付いてると思う。でも、私から話さない限り、聞こうとはしないわ。そういう子なの」
「そっか…でも、信じられないな。そんなスーパー小学生がこの世に居るなんて」
オトちゃんは中々信用してくれない。そうだ!もしかしたら、一枚くらい、写真があるかも。私は鞄の中をまさぐった。
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