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「ホント、何なの、あの人。頭おかしいんじゃないの」 亜理子がフライドポテトを齧りながら言った。 「ホント、ホント。息子が一番ってね。冗談は顔だけにしろっつーの」 さゆりさんも中々辛辣だ。女を敵に回したら怖い、と、内心僕は密かに震えあがっていたのだった。 「あの……詩音さん。さっきの、見せてもらっても良いですか?」 奈々さんは二人の会話に頷いてはいたものの、参戦しようとはしなかった。隣にいる僕にそっと囁く。 「さっきのって?」 「アレですよ、賞状と楯」 「ああ…失礼しました。これですね」 僕はリュックサックから先ほど受け取ったばかりの賞状と楯を取り出した。 「わあ、やっぱり、凄い!間近で見ると迫力ありますね」 「そうですか?まあ…」 「え、私も見たい!触っても良いですか」 さゆりさんが身を乗り出した。 「え、ええ……どうぞ。大したものではありませんが」 「そんな事ないですって!わあ、やっぱ、凄いなあ。そりゃ、あれだけの演奏したんですもんね、当然ですよね」 「はあ…ありがとうございます。あの、僕の演奏ってそんなに良かったですかね」 「そりゃ、勿論!詩音さん、自信ないんですか?」 「いえ、そんな事は…個人的には完璧に近い演奏をしたと自負しています。しかし、僕は客観的な意見も聞きたくて」 「そっか…浪川っておばさんが変な事言ってたけど、そんなの、全然気にしなくて良いですよ。ってか、気にしちゃダメです。あんなのただの妬み嫉みなんだから」 「そうそう。負け犬の遠吠えよ、お兄ちゃん」 「そうですよ、詩音さん。見て下さい、今日のやつがもうネット上にアップされてる」 奈々さんはそう言うと、携帯の画面を僕に向けた。 「これは……何ですか?ツ〇ッター?」 「それの、神童botってやつです。身近な秀才たちをこぞってのっけてるんですが、その中でも詩音さんは飛びぬけて優秀で。ファンも居るんですよ」 「え………それは、知らなかったなあ」 「詩音さんって、そういう所も良いですよね。ほら、能ある鷹は爪隠すって言うじゃないですか。 詩音さんは、まさしくそれ。 でもね、こないだのコンクールで浪川って人が優勝しちゃったがために、一回だけ、浪川って人がここに載ったんですよ。 私、それ見て頭来ちゃって。むしゃくしゃしたから、ブロックしちゃいました」 「はあ……」 「でも、今日の演奏がこうして掲載されて、詩音さんの名誉回復的な。だから、今回は詩音さんが金賞を獲ってもらって、ホントに嬉しかったです」 「はあ……」 眼前の彼女たちは、心から嬉しそうに言った。しかし、僕はまだピンと来ていない。つまりは、彼女たちの復讐心に僕が利用されているだけなのではないだろうか? 「お兄ちゃん、良かったじゃない。一般人なのに、ファンまでつくなんて」 「ああ……まあな……」 「なあに?何か、不満そうね」 「いや、別に。僕自身、完全に勘を取り戻していたことに安堵しているんだ」 「まあ、そうよね。お兄ちゃんがあんなに練習してなかったのって、初めてだもんね」 「ああ。賞は二の次だ。頑張れば結果が出る程容易い世界ではないしな」 「でも、ホントに嬉しいです。私達、次のコンクールでも応援団として行きますから」 「ああ……ありがとう」 僕は違和感を感じながら、とりあえずは礼を言った。
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