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それから一ヶ月後、俺達と奥さんは再び出会う事になった。 奥さんはああいう人だから言わないが、きっと、人知れず俺達の事を気にしてくれていたんだと思う。 再会した場所は、小さい頃、お袋によく連れてきて貰ったイタリアンの店だった。俺は知らなかったが、お袋と奥さんもよくここに来ていたらしい。 「賢達もよくここに来てたなんて。私ね、元は忍さんにここのお店、教えて貰ったのよ。忍さんが何かと理由をつけて連れ出してくれてたの」 「えっ、お袋が?……でも、」 日記の内容と矛盾する。あの内容の通りだとしたら、閉じ籠りがちなお袋を奥さんが外に連れ出してくれた、という事だと思うのだが…… 「どうかした?」 「あの……や、俺、お袋の日記…を、見たんすよ。遺品を親戚に欲しいって言われて。で、その日記の中だと、閉じ籠ってたお袋が、奥さんに連れ出して貰った、って」 そう言うと、奥さんはクスッと笑った。 「それは随分最初の頃ね。最近はね、忍さんに色んな場所を教えてもらって、二人とか、他の人交えて三人で出掛けてたのよ。ほら、忍さん、学校にお勤めされていたじゃない?だから、生徒さんがよく行くお店とかも教えて貰って。年甲斐もなくはしゃいじゃったりしてね」 「へえ……」 「色々行ったわよ。若い人しか知らないようなスイーツのお店とかね…… あ、ネロ、ピザ好き?食べる?」 「こいつ何でも食いますよ」 「あらあ、良いわね。嫌いなもの、ない?うちの子は好き嫌いが多くて困ってるのよ」 「あ、そういや、お子さん、いらっしゃるんすよね。母さんが話してましたよ。下の……女の子?すげえ美人だって」 俺がそう言うと、奥さんは携帯を取り出しディスプレイ画面を俺に見せた。 ポニーテールのドレス姿の女の子が、カメラに向かってピースサインをしている。 「うわ、可愛い。これが、下の子っすか?」 「そう。二人いるんだけど、上が男で、下が女なのよ」 「名前、何て言うんすか」 「アリス。白亜紀の亜に、利用の利、子供の子で、亜理子」 「しゃれてんなあ。亜理子ちゃん、か……兄貴なんかカタカナだし、俺はいかにも適当につけられた感じだもんなあ」 「そんなことないわよ。賢は宮沢賢治の賢じゃない。でも、ネロは、どうしてネロなの?前から不思議だったんだけど」 「ああ、それは……」 日記の割りと最後辺り、その答えは書いてあった。 「6月8日 夕方まで、コンテストに向けての補修を行う。補修生徒は50人ほど集まったのだけど、この中で何人予選を通過するのか? 25年前に同じコンテストに、昔、趣味で描いていた絵本に出てくるオリジナルキャラクターのネロという少年の絵を応募したことを思い出す。一年越しで描いた作品。 三回目の応募にして、大賞を獲れた。 わたしにとってネロという名前は、縁起の良いもの。だから、自分の子供にもつけた。 あれがなければ美大には進んでなかったなあ。」
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