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開場前
「んもう! ツキシロ、どこ行っちゃたのよ!」
王宮内の回廊をハイシロはプリプリしながら速足で急いでいた。
中庭は宴会準備の真っ最中。
立食形式にしたので、円形テーブルがいくつも並び、クロスや生花で飾り立てられている。グラスや酒類の配置が終わり、そろそろ料理の搬入が始まる。
一時間後には開場予定だ。なのに、主役が見つからない。
ザクロは昨日すっかり酔いつぶされて、昼近くまで使い物にならずにひっくり返っていたから、ツキシロの行方など知らぬ存ぜぬ状態だった。
使えない新郎だ。
最奥の間に行くと、コハクから、ツキシロはもう水やりに来た後だと言われた。シロガネは梢で嘴を羽に突っ込んで寝ているので、多分聞いてもわからない。今日は何の日だか分かってて朝から働き者か、と呆れる。
他国に嫁ぐことになるのでしみじみどこかで名残でも惜しんでいるのかと思ったけれど、泉にも城壁にもいなかった。宴には子供の頃から馴染みのある王宮中の者が入れ替わり立ち代わりで来る予定なので、誰かに会いに行くってことも考えにくい。
「厨房で鍋をかき回してましたよ」って言われて厨房に行ったら「酒瓶持って会場に行きました」って言われた。それではと宴会場に出向くと「生花を持って入口の飾りつけしてましたが」と……。すっかり振り回されている。
ツキシロを探して走り回っているうちに、ああ、これがツキシロなりの「名残の惜しみ方」なのかと合点がいった。が、これから、着替えて客を迎えなきゃいけないってのに何考えてんだか。
王宮の正面玄関までいって、やっとツキシロを捕まえることができた。
王宮付きの侍女たちとウェルカムフラワーの飾付けをしながら、自分の髪にも花を盛られて楽しそうにしているところだった。
「やっと見つけた! ツキシロ、そろそろ着替えるから来て」
「あ! ハイシロ来た!」
ツキシロは満面の笑みで、手にしていた白いラナンキュラスをハイシロの髪にさした。
「ザクロ、起きてきたか?」
「昼頃、ボケーッとした顔して部屋から出てきたから風呂に突っ込んだ。今頃の時間だったら、多少マシになってると思う。案外、お酒に弱かったのね」
「緊張してたのもあったかもな。酒に関しちゃ、今日の方がヤバいかもしれないのに。いいよ。今日はヤバそうだと思ったらこっちが盃奪って呑んでやるから」
侍女たちに手を振って辞去すると、双子は連れ立って居室への廊下へ向かった。
「あの『貴婦人』どうした?」
「ガラス瓶ごとシアンに託したわ。あっちの精霊領域前にポイしてくるって。時間はそのうち自然解凍すると思うし。懲りたのならしばらくこないんじゃない」
「ならいいけどね。無駄な殺生はしたくないからなー。そうするしかないか。もし、逆恨みされたら?」
ハイシロは、肩をすくめた。
「その時はその時でしょ。今なら相手の姿かたちも魂胆も分かっているから、対処は楽よ。ニンゲン相手ならいざ知らず、異能集団に喧嘩吹っ掛ける根性があるなら受けて立つわ。ま、その前に、シアンたちが鉄壁防御してくれるみたいだから」
「なら、安心だ。ところでさ……」
「ん?」
「今日は、軽装でいいんだよね」
ツキシロが念を押すように言うと、ハイシロは、何を言いますか、という顔をした。
「可愛いの準備してますが、何か?」
「衣装、見てないよ」
「見せてないもーん」
超ニッコニコのハイシロ。
「ホントはね、春になったらツキシロに着てもらおうと思って、ドレスより前に作ってたやつなのよ。そんな派手なやつじゃないよ」
「派手なやつじゃない……信じていいんだな?」
「うん。派手ではありませんよ」
このお花いいなー、と、ハイシロはツキシロの頭に盛ってある生花を眺めまわした。
「お風呂入ったら私の部屋に来てね」
「了解。ちょっとその前にこの花取って。髪、梳かせない。どうなってんのか自分じゃわからないんだよ」
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