世界の端

1/10
前へ
/10ページ
次へ
 街を少し外れた森林の中に塔があった。塔と言ってもそう見映えのする端正なものではなかった。その材質はむやみやたらに、形を持たないなにかをぐちゃぐちゃとかき集めて箱状に固めたようだった。箱が煉瓦よろしく積み立てられているのだ。形も歪で歪んでいた。ざっと全体を見渡したとき、それはルビンの坪のように真ん中で括れていて不安定な様相をしていた。色はほとんどが鈍重にくすんでいるが、ときどき瑠璃色や萌葱色が、にわか雨の際、アスファルトの道路に浸る水跡のように点々としていて、色にもまとまりはなかった。そのように、禍々しく、すべてがアンバランスだった。しかしそれは不思議にも崩れることはなかった。塔がいつからあったのかは分からない。即興でつくられたようにも見えるし、時の流れを耐え続けてきたようにも見える。私が幼いときからそれはあった。塔の近くには老齢の男がいた。7、80歳ほどに見えた。彼がゴミや鉄片や木材などを集めて運び、箱を作り、それを積み上げていた。その様子を見て、塔は未だ完成してはいない、ということが分かった。口を開くことのない男だった。それでも私はその男の声を二度、聴いたことがあった。一度目は夜、クラスメートの子供たちと肝試しに、塔へ行った時だ。たどり着き、私たちは塔に登ろうとしたのだが、その時に、普段の男の、沈黙の面持ちからは想像のできない、けたたましい怒号が耳を貫いた。私たちは驚き、泣きながら逃げ帰った。それで男は夜になってもこの塔にいるのだ、ということが分かった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加