処暑・その2

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処暑・その2

*処暑はすでにあるのですが、どうしても書きたい虫が出てきたので掲載します。ひとつの項目が必ずしもひとつの虫である必要性もないですしね。 ***  日暮れが近くなり、雑木林も薄暗くなってきた。そろそろ睡眠時間だが、休む前に俺はもう少し食事をとっておくことにした。  いつもの樹液ポイントに向かって飛ぶ。俺が到着すると、キマワリやカナブンが食事をしていた。いずれもそれほど大きい虫ではないし、気性も荒くはない。  彼らは突如やってきた俺の姿にビビった様子で、いそいそと場所を空ける。俺はすぐさま陣取りたい衝動を抑えて、できるだけ優しい口調を意識した。 「別に俺に気を遣う必要はない。君らはそのまま樹液を吸っていたらいい」  すると彼らは口々に言った。 「ありがとうございます」 「感謝します」  俺は得意になって端っこに陣取り、樹液を吸う。クヌギの樹液。俺の大好物だ。端っこだっていい樹液が出る。しばし甘い樹液を味わう。  俺はオオムラサキ。言わずと知れた日本の国蝶。オスの俺は青みを帯びた紫の翅が特徴的だ。蝶でありながら甲虫などに交じって樹液を吸うにはわけがある。それは、樹液にはたんぱく質が含まれているからだ。俺の発達した胸筋を動かすためにはたんぱく質がなくてはならない。プロテイン命の俺。  いうなれば俺は、日の丸を背負ったボディビルダー。日本代表選手。だから言動にも気をつけなければならないというわけだ。弱い虫たちに場所を譲り、強い虫が来たら彼らを守る。  だが今の俺は落ちぶれている。弱い虫たちを救うことでしか自分であることを保つことができなくなっている。  蝶目最強の強さを誇る俺にも弱点はあるものだ。それはオオムラサキのメス。俺もオスとして生まれたからにはメスといい関係になって遺伝子を残したい。だが、オオムラサキのメスは俺の予想をはるかに超えていた。まさに蝶目最強女子。  俺は今まで数匹の女子に出会った。樹液を吸っていた俺は彼女らを発見して追いかける。だが彼女らの方が一枚も二枚も上手だった。  俺が追いかけて、追いつこうとしたまさにその時、さっと飛翔のスピードを上げて視界から消える女子。視力が悪い俺は、たちまちパニックに陥ってしまう。追いかけていた女子が見つかったと思っていざ追いかけようとしたら、それが鳥だったということもしばしばだ。  そんなこんなで、俺のプライドはずたずたになっていた。俺はこのまま日本代表であることを意識しながら、弱い虫たちを守っていくことでしかプライドを保てないのか……。  キマワリとカナブンしかいなかった樹液ポイントには、いつの間にかゴマダラチョウやヒカゲチョウなども加わっていた。彼らは俺がいたことにビビっていたらしいが、最初からいた甲虫たちに俺のことを害のないやつだと紹介されて樹液を吸っているらしい。  何だかんだで俺たちは、仲良く樹液を味わっていた。だが、ふいに聞こえてきた危ない羽音。ブーンという低周波。
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