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母子三人で、身を寄せ合うようにして暮らしていたが、その母が病で急死した。
「母さん、母さん……」
涙をぽろぽろこぼす惠の背中を、瑛一は優しく撫でさすった。
これからは、俺が一人でこいつを守るんだ。
そんな決意を胸に、母を見送った。
はずだった。
だがしかし。
母の葬儀もそこそこに、さる富豪の顧問弁護士と名乗る男が二人の前に現れたのだ。
「俺たちの父親が、藤堂(とうどう)財団のトップ!?」
「お二人は、藤堂家の一員として迎えられます」
瑛一は、そんな御大層な身分など御免だった。
大学は辞めて、弟のために働こうと考えていたのだ。
「お断りだ。今まで母さんを、惠を放っておいて、いまさら何だ!」
「藤堂さまは、これまであなた方の養育費はきちんと払っておいででした」
だから、進学もかなったのですよ?
そう言われては、口をつぐんだ瑛一だ。
確かに母の稼ぎだけで二人とも進学だなんて、どだい無理な話だ。
「お母様の治療費も、藤堂さまが用立てておいででした。藤堂さまは、ずっとあなた方のお母様を愛していらしたのです」
「その母さんは、もういない。俺は俺の好きにさせてもらう」
頑固な瑛一に弁護士が困った時、今まで黙っていた惠が口を開いた。
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