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藤堂の家に、惠が暮らし始めて一ヶ月。
急に瑛一が、ふらりと戻ってきた。
暮らすには藤堂邸は落ち着かない、といつもふらりと出てゆく瑛一。
今回も、出て行った時と同じように、ふらりと戻ってきた。
ただその手には、妙にぴかぴか光る新しいハサミを持っていた。
「惠、そこから動くな」
自分の部屋で雑誌を読んでいた惠は、突然現れた兄に驚いた。
しかも手を伸ばしてその髪に触れ、ハサミを入れようとしているのだ。
「ちょっと! 何するの、兄さん!」
「散髪だ。もっと短く切ってやる」
「やめ、てよ。もう!」
兄の手首を掴んで必死で抵抗すると、ハサミが床に落ちてしまった。
かがんで拾う瑛一の隙を見て、惠はひとっ跳び間合いを置いた。
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