1綿菓子ちゃん、合コンでお持ち帰り

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1綿菓子ちゃん、合コンでお持ち帰り

 姫宮和花子、二十九歳。古風な名前だが、友だちや役所の同期には姫ちゃんと呼ばれている。そのプリンセスなイメージ通り、和花子はいつもふわふわカールで、爪はカルジェルのフレンチネイル。フェミニンなキレイ系の服に身を包んでいる。  そんな彼女は西日の当たる狭いマンションで一人暮らし。そこで毎朝一時間半かけてメイクをし、髪にカールをかける。なぜかって?  ――それは顔が十人並みだから!  これをすることで、やっと美人の仲間入りになれるというわけ。いわゆる雰囲気美人だ。  和花子は区役所の契約検査課勤務。広報課にいる同期、有馬史織という美人とつるんでいる。美人といっしょにいると、男どもは『美人たち』と複数形で認識するという法則があるからだ。もちろん和花子も史織も、同期や同僚から言い寄られたことは一度や二度ではない。  和花子は、役所内で恋愛遍歴があるので、もう区役所(ここ)での出会いは望み薄だが、史織は本人曰く『ある時期だけに集中して一気に皆が告ってきたものだから、脊髄反射で断っちゃった』とのこと。  そのため、史織は今でも役所内で高嶺の花的存在である。  ――それより一人でいいから男をキープしとけばよかったのに。  そんなツッコミを入れたいが、史織にはしくじったと思っているふしがない。  和花子には美人、特に実家暮らしの美人は、そういう”欲”がないように見える。一人暮らしの和花子は違う。狭い我が家に帰るたびに孤独が襲ってくる。もう七年も一人で暮らしているというのに、いまだに慣れない。猫でも飼おうかと思うが、飼ったが最後、一生独身になるという噂を耳にするので我慢している。  和花子は食堂で史織に、メイクと髪のセットにどのくらい時間がかかるか訊いたことがある。  史織はモグモグさせている口を手で隠しながらこう言った。 「あわせて五分くらいかな?」  ――これだから美人はいやだ。  元々瞳が大きくて睫毛が長ければ、マスカラもアイラインも必要ない。肌もきれいだから、コンシーラーで隠したり、厚めなメイクをナチュラルっぽく見せたり、なんて頑張らなくてもいい。おそらく、このミディアムショートも寝癖がつきにくいとか、そういう理由から辿り着いた髪型なのだろう。 「おばちゃんのエビフライ、いつもおいしいけど今日は最高。少しサクサク度がアップしてると思うんだよねー」  こんなことに思いを巡らせることができるのは、美人の特権だ。どうやったらモテるのかとかそういうことに時間も頭も使わなくて済むのだ。  和花子は三年前に所内の男と別れて以来、彼氏いない歴を絶賛更新中で、二十九になってから尻に火がついて合コンしまくっている。  ――元カレに先を越されたくない。  ところが史織は同い年なのに余裕をかましているのである。  口惜しいので合コンがさも楽しいことのように史織に話していたら、ある日、史織は言った。 「いいなあ。私、ずっと彼氏いないんだ」  驚いた。もしかして彼氏いない歴イコール年齢なのではないかと思いつつ尋ねた。 「最後につきあったの、いつ?」 「学生時代の彼氏と社会人一年目に別れたのが最後」  史織は区役所一華やかな広報課にいる。出会いが多そうに見えるが、隣の芝生が青く見えていただけのようだ。和花子が史織の顔を改めて観察すると、顔の造りは綺麗だが色気がない。急に優越感が頭をもたげた。 「今度、誘ってあげるよ」  美人を連れて行くと男性側の幹事に喜ばれるし、和花子も女性側の幹事として鼻が高い。史織は、そんな和花子の皮算用に気づくことなく「すごい人脈だね」と、尊敬の眼差しを向けてきた。  それでいい気になっていた和花子は天然美人を舐めていたとしか言いようがない。  連れて行ったおしゃれイタリアンで、合コンの相手ではなく、三十五歳のイケメンオーナーと恋に落ち、史織は一瞬で合コン仲間から卒業した。合コン相手以外との出会いがあるとは……天然美人、恐るべし!  その後も和花子は相変わらずだ。昼は、契約検査課で建設会社のおじさん相手に「入札において技術職員数は加点対象になります」などと淡々と説明し、夜はいそいそと出会いを探しに出かけるむなしい日々が続いていた。  和花子が合コンしては反省会と称して女友だちと呑んで、みたいな夜を繰り返しているうちに、史織はどんどん進化していき、彼とのセックスについて相談をしてくるまでになる。和花子は置いてけぼりになった気分だ。  だが、ここで何もしなければ、いよいよ彼氏ができない。というわけで和花子は毎週金曜日の合コンを義務化した。合コンで知り合った男性に今度は幹事になってもらって……と、男のネタは広がる一方だ。  そして今日は金曜日。今までで初めての職種というべきか、人種というべきか、海苔屋の若旦那。つまり、株式会社の御曹司なのである。二十代半ばから三十代半ばの四人。合コン仲間の彩香が幹事として開いてくれた。  海苔屋というから和食店にでもなるのかと思いきや、渋谷のナチュラルなカフェだった。ロハス感てんこもりで、外も内も全て木製で店内に植木を配置し、緑が目に入るように工夫してある。  交互ではなく、男四人と女四人が向かい合って座ることとなった。まるで集団見合いだ。和花子の席は左端で、相対する男たちは左から、落武者、アイドル(!)、フツメン、幹事のメガネ。  和花子の斜め向かいにアイドルみたいな、美形の年下男子がいた。自己紹介で二十六歳と判明。合コンなんかに来なくても彼女なんてすぐ見つかるだろうに、なぜここにいるのか。  もしかして海苔屋青年会とかあって、そのつきあいで来たのかもしれない。そう思わないと和花子には納得できなかった。それほど美しい顔だった。実際、その場にいたほかの女子三人は彼のほうばかりを見ていた。  だが和花子はその美形に見向きもせず、目の前の落武者、谷口とばかりしゃべった。髷が取れた落武者のように、頭頂部だけはげているのである。その髪型も相まって、アラフォーに見えるが三十代前半だそうだ。いっそ全て剃ったら年相応に見えそうなのにとは思うが、彼は気にしていない様子だ。  和花子は、この落武者が新たな合コンを開いてくれることに賭けることにした。  二十九歳の和花子には、結婚に繋がる可能性が低い男にかまけている時間などないのだ。  海苔屋チームは、さすが御曹司だけあって全て奢ってくれた。二次会もおしゃれバーで、そこでも奢ってくれた。  ――谷口さんに頼んで今度また合コンしてもらおう。  和花子が上機嫌で帰途につこうとしたところ、アイドルくんも和花子と同じ副都心線だと言って微笑みかけてきた。普段はきりっとしているのに笑うとかわいい。落武者の口直しにアイドルくんの顔を拝ませていただきつつ帰ることにする。  副都心線車内の人混みの中、吊革に片手を伸ばして向かい合った。そこで気づいた。  ――あれ? アイドルくん、名前……なんだっけ?  もう会うこともないだろうと思っていたので名前を覚えようともしていなかったのだ。屈んで名刺入れを取り出そうとすると、彼が先制してきた。 「俺、藤山美津雄です」 「フジヤマ、ゲイシャ?」  和花子が、名前を忘れたことを変な切り返しでごまかそうとするも、藤山さんは不機嫌に応えた。 「富士山(ふじさん)じゃなくて藤の花の藤」 「変な冗談を言って、すみません。お名前を忘れて失礼しました」  少しお辞儀した。 「いいですよ。最初からあからさまに俺に興味なかったですもんね」 「女性陣から大人気だったし、放っといても大丈夫かな? みたいな?」  美津雄がなぜか小さく笑った。 「なんですか、それ。姫宮さんが羊飼いで俺が羊みたいな」  ――ほんと美形ってお幸せね。  和花子はいらだちを覚えた。  美人や美形は恵まれすぎて鈍感だ。コンプレックスを抱える人間は本音だけでは生きていけない。美津雄のように若くてハイスペックな男が、もうすぐ三十になる十人並みの女を相手にするとは思えない。だから放っといたのだ。  ――もう会うことないだろうから好き放題言ったれ! 「羊だなんてとんでもない。ただ、藤山さんみたいに、女のひとからちやほやされてきた男性(ひと)って下手そうなんだもん」  美津雄が目を丸くしてる。 「え、下手って?」 「ごめんなさい、うっかり下品なことを。酔っ払いの言うことだから、忘れてね。じゃ!」  ちょうどそこで駅に着いたので降りたら彼も降りてきた。 「まだ成増じゃないですよ」と言って和花子の腕を掴んでくる。  駅名標を見上げると、『東新宿』とある。ノリで降りてしまったようだ。自分が思ったより飲みすぎていることに気づいたところで、彼の綺麗な顔が間近に来た。 「じゃあ試してみて下さいよ」 「え? 何を」 「とぼけた羊飼いですね。本当に下手かどうかを、ですよ」  ――って、キスの上手い下手じゃなくて、もっと先のことよね……。  和花子は、美津雄の卵みたいにつるつるの肌を凝視し、ごくりと生唾を飲み込んだ。  売り言葉に買い言葉としか思えないが、お互い酔っているし、こんな夜があってもいい。こんなかわいい子とできるなんて、ケンカ売ってよかったとすら思える。  とはいえ、おっさんみたいにここで欲望丸出しにはしたくない。和花子は契約検査課の課員の仮面をかぶることにする。 「そうですか。では場所はどちらで?  場所も上手い下手の加点対象になります」  敢えて仕事モードで淡々と告げてみた。 「少し待ってください」  美津雄がスマートフォンで検索し始める。 「いいホテル、見つけました」 「本当に行くの?」 「もちろん」  美津雄が片眉を上げていたずらっぽく微笑んできた。  ――かわいいだけじゃなくて、こんな艶っぽい貌もできるのね。加点2。  地上に出ると、すぐそこに、おしゃれなホテルがあった。中に入るとデザイナーズホテルだとわかる。  和花子はくるっと体を回転させ、美津雄のほうに顔を向けた。 「海苔みたいな和の仕事の反動?」 「いや、いくら海苔が和食だからって、新宿で旅館は見つからないでしょ」  ――ホテルがおしゃれだ。加点1。  美津雄は和花子のにやけた顔を一瞥したのち、ハッとした表情になり、「ちょっとコンビニ」と言って外に出た。隣のコンビニに入っていくのが見えたので、遅れて和花子も足を踏み入れると、彼が……コンドームを手にしていた。 「あ、どうも」  和花子はよくわからない挨拶をして、飲料コーナーに退避する。気まずい。  ――でも、大事なことだよね。加点1……かな? 「お待たせ」  気づいたら、美津雄は和花子の横にいた。和花子は「あ、うん」とだけ言って、うつむく。照れくさい。  美津雄がホテルのチェックインを済ますと、お互い急に無言になり、微妙な距離を保ったまま部屋まで向かう。  部屋に入ると、あまりの広さに驚いた。ソファーなど家具がいちいち高級そうだ。壁には現代アートが直に描かれているし、窓が天井まである。 和花子は窓に駆け寄った。十七階なので新宿のビル群が一望できる。 「すごーい! 夜景、きれーい。海苔屋さんっていまだにバブル?」  振り向くと、美津雄が近寄ってきた。 「藤山さん、です。バブルだと弾けるでしょう? 俺は弾ける予定はありません」 「ごめんごめん。ただ豪華だって言いたかっただけよ」  美津雄の背中をばーんと大仰に叩こうとしたところ、その手を取られる。彼が真顔なものだから、心臓が跳ねた。いざとなると緊張するものだ。  美津雄が和花子の手を取り、背を屈める。顔がす目の前に来た。その頬に、彼女の手のひらをつけると、その感触を味わうように目を瞑る。手のひらが温かい。  美津雄が目を開け、流し目を送ってきた。 「場所の加点はありましたか?」  いきなりの質問で、和花子は慌ててしまう。 「え、えーとプラス1?」  ――てゆーか、今のあなたのせくすぅいーな表情、プラス10だわ! 「10点満点なんですか」 「そ、そうね。そんなとこかな。で、藤山さんは、こういうこと、よくあるの?」 「どうして?」 「手練れっぽいから」 「ないですよ。今日は海苔問屋協同組合の青年部の活動で、初めて合コンというものに来たんです」  ――本当に、そういう組合あったんだ……。 「姫宮さんは?」 「は?」 「こういう展開、よくあるんですか?」 「ないよ」  ちょっと腹を立てながら言ったら「じゃ、今日はどうして?」と返された。  ――美形(エサ)が勝手に寄って来たからとも言えないしな……。  そこで、美津雄が和花子のことを『羊飼い』と言っていたことを思い出した。 「羊を放っときすぎたから回収に来ました、みたいな?」  美津雄がプッと噴き出した。 「面白いですね」  ――そういう面白キャラじゃないんだけど……まいっか。 「じゃ、早速回収してもらいましょう」  美津雄が和花子を軽々と抱きかかえた。顔がアイドルなのにガタイがいい。彼が迷わずベッドのほうに進むものだから、獲物にでもなった気分だ。 「え! これじゃ、私が羊じゃない」  美津雄が一瞬動きを止めた。 「それもそうですね。じゃ、交代。俺が羊飼いで、姫宮さんが羊」  美津雄がベッドに和花子を下ろすやいなや、上に跨ってくる。彼の長い睫毛、細く高めな鼻梁が文字通り目と鼻の先に来た。  ――ほんとにきれい! 今死んでも悔いはない。加点100! 「そういえば、この羊は違う駅で降りようとしていました。俺のほうに戻してやらないと」  和花子は唇を覆われ、生温かいものにこじ開けられる。  ――やだ、気持ちいい!  美津雄が舌を絡ませてくる。いきなり舌とは大胆な男だ。両手とも指間に彼の骨ばった指を沈められ、体は組み敷かれている。  美津雄は唇を離したあと、片手で和花子のブラウスのボタンを外し始めた。 「手馴れてる……」 「下手なのは嫌いなんでしょ?」  そうだ。これは負けず嫌いで始まったのだ。今さらだが、和花子は、そんな理由でセックスするのが馬鹿馬鹿しくなってきた。 「あー、ごめんごめん。意地悪言って。私、大分酔いが冷めてきたみたい。あなたのキス、すごくよかった。だからセックスもきっと上手い。認めるから、もう頑張らなくていいよ。ホテル代も出すし」  美津雄の眉間に皺が寄った。 「別に頑張ってるわけじゃないし、ホテル代もいいですから」 「え、でも悪いし」  和花子が絡め合った指をほどき、起き上がると、(はだ)けたブラウスの中に手が伸びてきて、ぞわっと震える。彼の長い指がブラの中で、ふくらみに食い込んでいた。  それだけで快感が奔り、ビクッと反応してしまい、和花子は恥ずかしくなった。だが仕方ない。こんな美形にさわられていやな女はいないだろう。 「や……だから無理しないでいいのに」  美津雄の肩を押したがビクともしない。 「無理してません。姫宮さんとしたいだけです」  ――若いから急に止まらないんだ。そもそも、けしかけたのは私のほう……。 「わかった。今夜は責任取る」  言い切った和花子に、美津雄はただでさえ大きな目をまん丸とさせた。その丸の縁には睫毛がビョンビョン伸びていて、外国のアニメキャラクターのようだ。 「ええ。責任取って下さい」  美津雄がまた唇を重ねてきた。和花子は彼の首に手を回し、今度は自分から舌を入れた。彼の口内は温かく滑らかだ。  美津雄の瞳がとろんとしてきた。  ――ああ、アイドルくんも気持ちいいのね。  座って向き合い、お互い舌を入れたり入れられたりで何度もキスをした。美津雄がキスをしながら、和花子のブラウスを脱がせようとするので、彼の首から手を外した。ブラを外すとき少し手間取ったので、もしかしたら美津雄はそんなに手練れではないのかもしれない。  上半身を美津雄に剥かれ、和花子は彼のシャツのボタンに手をかけた。肌にボタンが当たったりするのはいやだ。肌は直に重ねたほうが気持ちいい。  途中から美津雄も加勢してきて、いっしょに彼のボタンを外した。露わになった胸元はしっかりと筋肉がついていて、思わず手を伸ばす。弾力があり、すべすべしていた。 「何か運動してるの?」 「青年部でゴルフしたり、サッカーしたり、野球したり……年少だからなんにでも駆り出されるんです」 「そっかー。なんでもできるんだね。おかげで気持ちよくさわらせていただいてますっ」  和花子は喜んで彼の上体を撫で回していた。いつの間にか彼をちやほやする女の一人になっている。美の力はそれほど大きい。 「今度は俺の番ですよ」  美津雄が左腕で和花子の背を支えて乳頭を吸ってきた。きれいな顔が自分の乳の上にあるなんて、信じがたい光景だ。和花子は、このときばかりは胸が大きめでよかったと思った。Eカップある。  和花子は、はあと、吐息で快感を逃す。  美津雄に押し倒され、和花子は仰向けになった。胸を押し上げるように付け根を掴まれ、張りつめた乳房のの先端をペロリと舐められる。 「あ……」と和花子は思わず声を漏らした。  すると美津雄がまた、あのいたずらっぽい笑みを浮かべた。  ――ああ、この表情好きかも。  これが最初で最後だから、ちゃんとよく見ていよう。  しばらく胸を愛撫されているうちに、美津雄の片手が和花子のスカートの中に侵入してきた。彼はストッキングを剥がそうとして、破ってしまう。 「あ、ごめんなさい、つい」 「いいよ、いいよ」  和花子は手を上に伸ばし、美津雄の頭を撫でた。心からそう思っていた。近所のスーパーでセールのときに買い溜めしたストッキングくらい、何本でもくれてやる。  美津雄は照れたように微笑んだ。だが彼の手は照れを知らず、ショーツの中に指を入れてきた。 「んっ」  美津雄の中指に快楽の入り口をくすぐられ、和花子は身を捩る。その間も彼は乳首をいたぶるのをやめなかった。  ――やっぱり手練れだ。  和花子はイケメンとつきあったことがあるが、彼女の大きな胸をぶるんぶるん震わせて喜ぶだけで、女性を気持ちよくさせようという気概が全く感じられなかった。  上手い下手というのは、結局、相手を喜ばせたいのかどうかということなのかもしれない。  ――イケメンだからって、下手って決めつけてごめんね。  その決めつけのおかげでセックスできたから、ある意味結果オーライだったともいえる。  胸はその先端をつままれたり、吸われたりでどんどん敏感になってきて、今や彼の指で少し触れられるだけで、変な気持ちでいっぱいになってしまう。恥ずかしい声が漏れる。しかも、彼女の中の弱いところが突きとめられていて、美津雄がしきりにそこを指先でこすってくる。水音が立ち始めていた。 「ふ、ふじ……さん」 「ふじやま……」 「ね、もう、ね?」  気持ちいいことも長引きすぎると辛い。 「欲しいんですね?」 「ほ、欲しい。こんなに上手い……の、初めて」  美津雄は何かスイッチでも入ったかのように、急にショーツをガッと下ろし、大きく勃ち上がったそれをゴムで包んだ。ぐぐっと押し込んできた。  こんなかわいい顔をして、なかなかボリュームのある大きさだった。でも、ゆっくりだったので痛みはなく、そこにあるのは悦楽だけだ。和花子の体中を快感が駆け抜け、自分でも彼のそれを締めつけているのがわかる。  美津雄の上体が前に倒れ、違う角度で突かれる。新たな快感に、和花子は背を浮かせた。胸板が和花子の胸の先端に時々あたり、それがまた存外に気持ちよく、彼女は喘ぐことしかできない。  やがて、大きな快楽のうねりに巻き込まれて果てた。  まどろんでいた和花子がやがて覚醒し、時計を見ると朝五時である! 、まどろむどころか、真っ裸で熟睡していたのだ。隣で美津雄が気持ちよさそうに眠っていた。寝ていると睫毛の長さが際立つ。  ――きれい……。  これは、いわゆる合コンの”お持ち帰り”というやつなのだろう。持ち帰ったのか、持ち帰られたのかはよくわからない。  和花子は、せめて後味はよくしておこうと考え、ホテルの便箋にメッセージを書いた。 『藤山さん、昨晩は失礼なことを言ってごめんなさい。あなたは、とっても上手です。加点だらけで、満点を越えてしまったぐらい。おねーさんが保証してあげるから、今後も自信を持って恋愛してください。お元気で。姫宮』  フロントで、和花子が部屋代を払おうと、金額を聞いたのはいいが、真っ青になる。十一万円だと!  ――あのお坊ちゃん、何げに一番高い部屋を選んでやがった!  道理で広いはずだと納得しつつ、年上として見栄を張ったことに少し後悔しつつ、思い切ってクレジットカードを差し出した。今後一カ月くらい彼の幸せそうな寝顔を思いだして、それをおかずにして白米を食べたら元を取れると自分に言い聞かせながら――。  土日は一切買い物をせず、家にあるもので食事をした。十万円分を節約で浮かせるのは、なかなか大変そうだ。  そして迎えた月曜日、出社してパソコンを開けると、美津雄からメールが届いていた。  先に帰られた上にホテル代まで支払われてショックだったこと、今度お金を返させてほしいということが書いてあった。ここまでは想定内だが、驚いたのはその次だ。 『本当に満点越えなら一夜で終わらせず、これから毎晩だって過ごせばいい。つきあってください』  ――はあ? 初めて会った日にやっちゃうような女とつきあおうだなんて、頭おかしいんじゃないの?  そういう主旨のメールを書いたら、すぐ返信が来た 『姫宮さんが俺をおかしくさせたんです。一晩じゃなくて、毎晩責任取ってもらいます』  和花子は確かに責任を取ると昨日告げていた。  そんなわけで、その晩も会うことにした。食堂で史織に報告したかったが、食堂代節約のために今日はおにぎりを握ってきたのだった。
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