4海苔王子は疑心暗鬼

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4海苔王子は疑心暗鬼

  和花子が頑として家に上げるのを拒むので、美津雄は気が気でない。和花子は服も下着も公務員とは思えないものを身に着けているし、ホテル代十一万円もぽんと払って去って行った。  あの色気だ。金持ちのおっさんの愛人でもしているのではないか。  そんな不安を打ち消すためにも和花子と毎夜過ごしたいぐらいだが、美津雄には仕事がある。  ホテルで二泊した翌日の月曜日、美津雄は羽田空港に向かっていた。九月は海苔の種付けの準備があり、有明海の浜回りでしばらく東京を離れる予定だ。美津雄は昨年、銀行を辞めて家業に入ったばかりなので、ちゃんと現場を見ておきたいと思っている。  美津雄は空港のファーストクラスラウンジでタブレットを取り出す。ふと和花子の言葉を思い出した。 『このお金、あなたの部下たちが汗水垂らして作り出したんでしょう?』  和花子のことだ『ファーストクラスに乗るなんてもったいないよ』なんて言い出しかねない。それを想像して美津雄はわずかに口角を上げた。  美津雄は何ごともケチるのは嫌いだが、不思議と和花子になら、ぎゅうぎゅう締めてもらいたいような気がする。今までの女たちは贅沢を喜んで享受したが、和花子は全く逆だ。まさに自分に必要な女だと思う。  美津雄はタブレットで、本名を使うSNS『KAOブック』を開け、『姫宮和花子』で検索してみるがヒットしない。次にSNSの『TSUBUYAKI』を開いた。『TSUBUYAKI』は大抵が匿名だが、もしやっていれば、一昨日のフレンチの画像を上げているはずだ。  レストラン名で検索したら、いきなりビンゴ。資料用にと和花子からもらった画像と照らし合わせたら、全く同じ画像だった。  アカウント名、ミャウミャウ。フェミニンな洋服ブランドMYAUMYAUが好きなのだろう。そしてアイコンはピンクの生クリームがけカップケーキ。その上に小さな王冠がのっている。  ――さすが、かわいくて、甘い……俺の綿菓子ちゃん。  少しにやけながら、画像に付いた文に目をやる。 『今日は友だちとアペティサンでフレンチ♪ 最初、高すぎって思ったけど、その価値あり♡ めっちゃおいしかった〜! しかも、こんなにキレイなんだよ』とある。  ――と・も・だ・ち!?  その言葉は美津雄に重くのしかかった。和花子は『友だち』とセックスするらしい。俗に言うセックスフレンドというやつである。家に上げないわけがわかった。彼氏ではないからだ――。  すぐに電話をかけて問い詰めねばと、スマートフォンを取り出したが、今は平日の午前で、和花子は勤務中だと思い直して引っ込めた。おかげで冷静になる時間ができた。  ――セフレから彼氏ってどうやったら昇格できるんだ?  よく考えたら、和花子としたことといったらセックスばかりだ。彼氏彼女といえば本来、デートをして仲を深めていくものではないか。美津雄はほっといても女が寄ってくるから、これまでデート案すら立てたことがなかった。(あっち)が勝手に連れ回そうとするので、うんざりしながらつきあうだけだ。  美津雄はタブレットをタップし『デート アラサー』で検索してみた。すると『アラサー女子が喜ぶつきあい方』という素晴らしいページがトップに躍り出た。そのページを開く。 『長くプラトニックな関係を保つ』というのは見なかったことにするが『公園や海などに行く「だけ」の昼デート』『遊園地や動物園など初々しいデートスポット』『自転車の後ろに乗せてもらい、二人乗りをする』は参考になった。大人の女性にはこういうティーンのようなデートが却って新鮮というわけだ。  美津雄は、和花子の役所のアドレスにメールを送る。 『今度の日曜日、 遊園地、動物園、公園、海ならどこがいい? ドライブがてら出掛けよう』  場所を指定せずにどこがいいか訊いたら、ホテルと答えられかねないので、敢えての選択制だ。喜ぶつきあい方【6】に『デート後は家の前まで送っていく』とあったので、ドライブにすることで、そこも押さえた。ついでに家に上がる作戦だ。  福岡空港に着陸してすぐにメールをチェックすると『遊園地に行きたい♡ 大学のとき以来かも! 楽しみ♪』という返信が来ていた。和花子のおっさんパトロン(決めつけ)は遊園地なんて連れて行ってくれないのだろう。ここで和花子の心の隙間を埋めれば彼氏に昇格間違いなしだ。  美津雄が空港のロビーに出ると、地元の社員が迎えに来てくれていた。これから、漁業協同組合、漁業協同組合連合会を回り、浜を巡る。美津雄は頭を仕事に切り替えた。 ※引用ホームページ 「大人になると逆に新鮮!」とアラサー女子が喜ぶつきあい方9パターン http://sp.sugoren.com/report/2402/
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