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朱の国の港
フレアと別れたあと、テンは黄の国の商港に戻った。
近頃のセイランの船は、積み荷を食料や日用品に替えて朱の国の港へ運んでいた。黄の国の商港で日用品や消耗品を積み、緑の国へ渡って穀類などの農産品を積んで朱の国へ渡る。実質ただ働きに近かったが、いつか貴石の取引が始まる時のために朱の国の港は整備しておかなくてはならない。
瓦礫や火山灰の類はツキシロが始末してくれたので、撤去の手間は省けた。材木やテントを運び込んで、再建は徐々に始まっている。
積み荷の中に砂糖玉があるのを見つけて、テンはつい顔が緩んだ。
ツキシロの好物だ。
「朱の国だと暑いから溶けてしまうかもしれんと思ったんだが、あればテンション上がるかなと思ってな」
セイランがニヤッと笑った。
朱の国の港では、ザクロが船を待ち構えていた。隣で白いフードをすっぽりかぶっているのはツキシロだ。
ザクロは、火山ガスが落ち着いてきたので、風向きを見て火の山周辺の様子を見に行ってきたと語った。火砕流や溶岩が積もっただけかと思いきや、断層や隆起した場所も見られ、新たな鉱脈の可能性もあるのだそうだ。それは朗報だ。
休憩スペースの大型テントに積み荷を搬入してから、ツキシロがフードを脱いだ。
「あ、え、髪、切っちゃったの?」
テンは思わず声を上げた。
ツキシロは何を今更という顔で見返した。
「ここ、暑いんだよ。前来た時も早くからこうすればよかったんだ」
背中の真ん中辺りまであった銀の髪を、うなじが見える長さのミディアムショートまで切りそろえている。
ザクロ的にはここまで短くするのは大丈夫だったのかと様子を見ると、デレそうになる顔を必死に抑えているところだった。心配はご無用だったわけだ。
ザクロは積み荷に目を向けながら続きを話した。
「谷の方は、通行の妨げになるモノ以外は、自然に任せようと思ってそのままにしている。水辺には少しずつ生き物が帰ってきたようだ。火山灰に葉をやられたので心配してたんだが、温かくなったら若葉が芽吹く木もあって、ちょっと安心している。やっぱ、焼かれなかったのは大きいな」
鬱蒼とした森に戻るまでは湿度が上がらないのか、以前ほど豪雨は頻回ではないという。
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