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Chapter 14 九条の秘密
空き教室。
教壇の前には、傷や落書きのある古びた机が、5個ずつ、扉から窓側まで並べられている。
教室や廊下から聞こえる生徒たちの声。徐々に針を進める秒針の音。自分の体の中から聞こえてくる心臓の鼓動。些細な音が気になってしまうほど、教室の中は静まりかえっている。僕と葛城さんのいる空き教室だけ、時が切り取られているかのように。
そして僕と葛城さんが、空き教室で2人きり。秘密のやりとりみたいで、少しドキドキしてしまう。
葛城さんは、そばにあった机に座り、
「明のことしっかり理解ってくれる友達がいて、よかったわ」
と唐突につぶやいた。
「どういうこと?」
「明は明るいように見えるけど、家族とあまり仲が良くないの。だから、子供のころから、自分のことを理解してくれる人が身近にいない。じゃあ、友達を作ろうと思って、いざ作ろうとしても、人との距離感が上手につかめないから、どうしても孤立してしまう」
「なるほど──」
僕が追い返したとき、九条が悲しそうな表情をした理由が、なんとなくわかった。
彼の理解者が、「どこにもいない」のだ。
家はもちろん、学校にもほとんどいない。強いて味方といえば、小さなころから知っている葛城さんぐらい。それじゃあ、誰かに甘えたくなるよね。
「初対面の人にお願いするのもおこがましいけど、明の話、しっかり聞いてあげてやってね」
「うん、わかった」
僕はうなずいた。二人は一緒に教室へ戻る。
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