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Chapter 15 一緒に帰ってみた①
放課後。先ほどまで降っていた小雨が止み、住宅街の中を湿った空気が覆う。
「ほんと、ジメジメする」
「そうだよなぁ。まだ、サウナにいた方がよっぽどいい」
汗で湿った顔に向かって、僕は扇子でぱたぱたと風を送る。
「水風呂あるしね」
「そうだな。お前の持ってる扇子、使わせてくれ」
「はいよ」
扇子を渡した。
「はぁー、涼しい!」
ものすごい勢いで、扇子を仰ぐ九条。
今僕は、九条と一緒に、最寄り駅までの道のりを歩いている。
一緒に帰ることになった経緯はこうだ。
空き教室で、僕が葛城さんから、九条の知らない一面を教えてもらったあと、再び教室へ戻った。
「九条」
「ん?」
「お前、いろいろ辛い思いしてんだな」
「辛い思い? なにそれ?」
最初に僕が怒ったときと同じ、悲しさが籠った笑みを浮かべながら、九条は言った。
「九条がどう隠そうが、近くにいる人には、わかるもんだよ」
「へぇ」
「まあいいや。よかったら今日一緒に帰らないか?」
「いいぞ。それにしても、どうした東条? 孤独を好むお前が、自分から誘ってくるのはおかしい。もしかして、頭でも強く打ったか?」
神妙な顔つきで、九条は僕の方をじっと見つめる。
「打ってないって。話を聞いてやりたいから誘ったの。それに・・・・・・なんか、やっぱり、もっと、こう、話したいし」
「やったー!」
九条は大手を上げて喜んだ。
狭い道が網目のように張り巡らされている住宅街から、コンビニや飲食店の立ち並ぶ、交通量の多い通りへと出た。
僕は横断歩道を渡って、駅までまっすぐ向かおうとしたとき、九条は、
「誠、コンビニがあるから、良かったら寄ってかね?」
いきなり僕の手を引っ張り、コンビニへと向かおうとする。
「ちょ、今日帰りの駄賃しか持ってきてないんだけど」
「そんなこと、いいから。今日は俺がおごってやるよ。それに、蒸し暑いしよ。アイスでも食べて涼んで行こう」
「いや、でも、買い食いは良くないんじゃ......」
「んなこと気にすんなよ。小学生でもあるまいし」
「ちょっと待ってよ」
「いいから、いいから」
九条は強引に僕をコンビニの中へと引きいれる。
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