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Chapter 17 喧嘩
内田から逃げた僕と九条は、学校へと戻った。
廊下でトレーニングをする運動部のかけ声。吹奏楽部や軽音楽部の演奏が、廊下の向こう側から聞こえてくる。
顔が真っ赤になった九条は、
「どうして逃げたんだよ。一発ぶん殴ってやれよ」
空き教室の椅子に腰掛け、息を切らしながら言った。
「どうして? って言われても、困るよ」
僕は思ったままのことを、そのまま答えた。
いじめた側にとっては、いい加減昔のことなんて水に流したら? という感覚で語りかけているのだろう。それも、何事もなかったかのように。だけど、いじめられた側には、恐怖が植え付けられている。一生をかけて枯らそうとしても、決して枯れない強い根を張る恐怖が。だから、戦え! と言われても、なかなかできるものではない。
「ほーう。いつもそうやって、逃げてばかりいるのか」
「だから、何だって言うんだよ!」
僕は大きな声で叫んだ。
「お前がずっと一人でいた理由、よくわかったよ。怖いんだろ? 中学のときの二の舞になるのが」
「怖くなんかねぇよ! 大体九条が勝手に僕に絡んできただけだろ? こっちは仕方なく付き合ってるだけだよ」
「じゃあ、話してるときの楽しそうなお前は、全部偽物だったのかよ?」
「違うよ、あれは・・・・・・」
偽物なんかじゃない。最初は嫌々だった。だけど、決まった時間に、毎日顔を突き合わせて話していると、九条がどんな人間なのか、興味を持てるようになった。
「じゃあ、何だってんだよ、答えろよ」
九条は僕の腹を目がけて、蹴りを入れた。
「痛い!」
1メートルほど吹き飛んだ僕は、胃酸を吐いて倒れた。蹴られた場所が、痛い。そして、少し気持ち悪い。
九条はよろけた僕の襟裾を強くつかんで、
「あのときみたいになるのが怖いから、お前は人との関わりを避けて、自分の殻に逃げている。違うか?」
思いっきり殴りつけた。
「違うって!」
「くどくどくど否定しやがって。なら、最初っから否定すんじゃねーよ!」
九条はまた、僕のお腹に蹴りを入れようとしたときに、
「何やってるの、明!」
体操着姿の葛城さんがやってきた。
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