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Chapter 2 怒り
九条に絡まれた次の日から、一日中付きまとわれるようになった。
朝のホームルーム前、授業と授業の間にある休憩時間、昼休み、そして放課後。隙さえあればモグラのように現れ、話しかけてくる。
一人でいたい僕にとって、九条のつきまといは、とても苦痛だった。もちろん、関わると面倒なことになるのでスルーしているが。
だが、九条はこちらの都合や気分などお構い無く、僕に話しかけてくる。
おかげさまで、家に帰ったときには、電池が切れたおもちゃのように動けなくなってしまう。
この繰り返しで、今日までやってきた。
(もう我慢の限界だ。思っていること、全部言ってやる! それでも辞めないなら、訴えてやるからな)
僕は心の中でつぶやき、スマホの電源を切った。
カバンから本を取り出して読もうとしたときに、
「おはよ! 東条くん!」
ヤツがやってきた。よし、この機にガツン言ってやろう。
「おい、九条」
僕は怒気を含んだ低い声で、九条のことを呼んだ。
「東条くんが初めて僕の名前を呼んでくれた!」
僕に名前を呼ばれたことが、よほどうれしかったのだろう。九条は、
「やった、やった」
歌いながら踊り始めた。クラスメートは、見てはいけないものを見るような目線で、軽やかに回転する九条を見ている。
(人の気持を察する力はこいつに無いのか)
九条の不思議な踊りを見た僕のイライラ度は、マックスに達した。人の邪魔をしている暇あるなら、どこかへ行ってくれ。
僕は、九条の襟裾をつかんで、
「てめぇ、二度と俺に関わんじゃねぇ。今度粘着してきたら、警察に通報するからな、警察に!」
大きな声で脅した。
このとき、和気あいあいとしていたクラスの空気は凍りついた。いつも大人しい僕が怒ってしまったことに、底知れぬ恐怖を感じているのだろう。
「ご、ごめん……。いつもしつこく絡んできて。そうだよね、怒りたくなるよね、いやだよね」
九条はいきなり謝りだした。そのときの表情は、どこか、悲しみと疲労感を含んだ笑みを浮かべていた。
逆ギレすると思っていたが、いきなり謝ってきたので混乱している僕。こういうときは、許してあげた方がいいよね。九条も罪悪感持っていることだし、このまま彼のことを罵倒し続けても、クラスメートの印象を悪くしてしまうだけだから。上から目線ではあるが、許してやるか。
「お、おう、わかればいいんだ」
僕はつかんでいた手を離した。
騒動が治まったタイミングでチャイムが鳴ったので、クラスメートたちは急いで席に着く。
この日は7限の授業が終わるまで、九条が僕につきまとうことはなかった。
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