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Chapter 19 誓い
僕と葛城さんは九条のいる空き教室へと戻った。
教室の窓からは、少しまぶしい初夏の夕日が差し込み、教室にある机や椅子は長い影をまっすぐ伸ばしている。
「お前ら、遅かったな」
手持ち無沙汰にスマホをいじっていた九条は、何もなかったかのように声をかけた。
「九条、君に話しておかなきゃいけないことがあるんだ」
「もしかして、お前の過去についての話か?」
そう九条が聞いてきたとき、僕は首を横に振って、
「違う」
と答えて、
「アイス食べてるとき、勝手に手を引っ張って逃げ出してゴメン」
と謝った。
「ちょ、お前そんなしょうもないことで謝るのかよ。まあ、アイスゆっくり食べられなかったのは不満だけど、もう過ぎたことじゃんか」
笑いながら答える九条。やっぱりアイスの件は不満だったのか。
「でも、九条ものすごく怒ってたし──」
「謝るのはこっちの方だよ。勝手に蹴ってしまって・・・・・・」
ごめんな、と九条は暗そうな表情は答えた。
「あと、中学のときのいじめっ子に喧嘩で勝つこともなく、過去のことを水に流して仲良くできない器が小さくて臆病者の僕。それでも、仲良くしてくれますか? 明日も、明後日も、そしてこれからも」
突然の僕からの問いかけに、九条は、
「当たり前じゃないか」
と笑顔で答えてくれた。
「ありがとう」
と僕が言おうとしたところで、
「君たち、あと少しで下校時間だ。早く出なさい」
担任の先生が入ってきたので、会話が途切れてしまった。
教室を出たあと、僕たち3人は薄暗くなりつつある住宅街の中を歩き、駅まで一緒に帰った。
「二人とも仲直りできてよかったね」
うん、と僕はうなずく。
「誠、アイスの件は忘れないからな」
「こら明、さっき謝ったでしょう? もう忘れなさい」
「でも、俺の楽しみが──」
なくなったんだぞ! と叫ぼうとしたところで、葛城さんが、
「黙れイキリショタが」
とすべてのイライラをこぶしに込め、思いっきり殴りつけた。
九条は涙目になって叫ぶ。
「痛いな! お前も俺の楽しみを邪魔するのかよ」
「アイスなんて明日も食べられるでしょう?」
「でも、今日食べるアイスと明日食べるアイスは別物なんだって」
九条と葛城さんが口喧嘩をしているときに、2番線に大宮行の列車が来ることを伝えるアナウンスが聞こえた。
「そろそろお別れだね」
喧嘩をしている二人に僕は伝えると、九条は、
「ほうほう。もうそんな時間か。今日のアイスの恨みは忘れないからな」
と笑顔で言ってきた。
「これ」
頭を叩く葛城さん。
「痛いな」
先ほどのようなやり取りを二人がしているときに、電車の車両が爽やかな風を切ってやってきた。
ドアが開き、スーツを着たサラリーマンや制服を着た中高生たちが、ギュウギュウになった車両の中から一斉に出てくる。
そのときに僕は、先ほど言いそびれた、「ありがとう」の気持ちを伝え、電車に乗った。
走り出した電車の窓からは、次に来る新宿行きの電車を待つ九条の姿があった。窓越しなので当然聞こえなかったが、口の動きからして、そのときの九条は、おう、と言っているように見えた。
怖がりで度量の小さい僕。迷惑ばかりかけるかもしれないけど、九条、葛城さん、これからもよろしく。
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