4人が本棚に入れています
本棚に追加
Chapter 23 たぬき寝入り
個人懇談があった翌週月曜の朝。僕は教室に入ろうとしていた。
どういうわけか、この日はいつもより足取りが重い。
入学してから3ヶ月以上は経過しているので、高校生活には慣れた。だから、高校生活の疲れではない。となると・・・・・・。
おととい九条を怒らせたことか。
確かに思いあたる節はある。だが、いつまでもくよくよしていては、ずっとこのままだ。
「落ち着け、落ち着け」
何度も心の中でつぶやき、深呼吸をしたあと、僕は教室の敷居をまたいだ。
いつもと変わらず騒がしい教室。
僕は机のフックにカバンをかけ、九条を探す。
いつものように九条は、机に伏して眠っていた。
目の前に回り込み、
「九条、起きろ!」
と言って僕は、大きく手を叩いた。
だが、起き上がる素振りを見せないで、曲げていた腕をゆっくり伸ばしただけだった。いつもはこの音を聞くと、雷鳴を聞いた猫のように驚いた表情を見せるのに。
でも、目の前に自分が怒らせた相手がいるんだ。言いたいことは、目の前にいるうちに言っておかないと。
「九条、この前はゴメン。あんなこと言っちゃって」
僕は謝った。
だが九条は、突っ伏したまま、何も返事をしない。
「なんで無視するんだよ。もう九条なんて知らない」
そう言って僕は、自分の席へと戻った。九条のやつ、本当は起きて聞いているくせに。
家へ帰った。自分の部屋に荷物を置いたあと、リビングへと向かった。エアコンの冷たく乾燥した風が心地いい。
珍しく、リビングのソファーには父さんが座っている。平日の昼下がりは、まだ仕事で帰ってこないのに。
僕がリビングに入ってきたことに気がついた父さんは、
「おう、誠。おかえり」
と声をかけた。
「父さん仕事は?」
「今日は早上がりだったんだ。それで、母さんから買い物頼まれてるから、良かったら一緒に行かないか?」
「うん」
僕は支度をし、父さんが出してくれた車に乗って、板橋にあるホームセンターへと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!