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Chapter 25 仲直り
九条に無視された次の日から、僕は九条と接点を持とうとするのをやめた。
久しぶりの一人ぼっちで気づいたことがある。僕の心に二人の自分がいることだ。誰かから横やりを入れられたりしないので、自由気ままな学校生活を送る僕。九条がいなくなったことでできた左に少し戸惑っている僕。
矛盾している二人の自分が、僕、すなわち東条誠という15歳の少年の肉体と精神の中で同居している。
「これが、喪失感というものなのか」
そんな哲学的な問いの答えを見つけつつも、九条に粘着されていたときと同じように学校生活を送り続け、気がつけば終業式の日になっていた。
「湘南や由比ヶ浜のビーチに遊びに行こうよ」
「お父さんやお母さんの実家のある田舎に行ってくる。お土産楽しみにしてろよ」
「私、この夏休みバイトしてみようと思うんだ」
「練習だるい」
まだ夏休みが来ていないというのに、クラスメートたちは楽しそうに予定を立てている。暑さや山のように出された宿題はもちろん度外視で。
ちなみに僕には夏休みの予定はない。強いて言うならば、ずっと家に引きこもっている予定だ。
暑い中外へ出ても、水分を無駄に失うだけだし、熱中症のリスクが高くなるだけだ。なんでみんな、こんな暑い中でも外に出たがるのだろうか。
──まあ、いいや。九条探そう。
僕は九条を探した。
いつものように、九条は自分の机で気持ち良さそうに眠っている。
思いっきり手を叩いたあと、
「起きろ!」
と僕は言った。
「わっ!」
リアクション芸人さながらの大きな声を上げて、起きる九条。
この光景を見たとき、どこか懐かしい感じがした。
「おはよう、九条」
「おはようって、突然過ぎてびっくりしたよ」
九条は照れくさそうに言った。
僕は、ずっと心の中に引っかかっていた、九条を怒らせてしまったことについて、謝ろうとする。
「この前は、勝手なこと言って、ゴメン」
僕の謝罪を聞いた九条は、少し寂しそうな表情で、
「俺も言い過ぎた。謝るのはこっちの方だ」
と言った。
「今日からまた、一緒に話したりお昼食べたり、帰ったりしよう」
「うん」
うなずく九条。
「そうだ、明日から夏休みだけど、僕の家に来ないかな? 僕の母さんが、九条の顔見たいって言っててさ」
僕は母さんとの約束を守るべく、九条を家に遊びに来るよう誘ってみた。
「いいぞ」
「わかった。待ち合わせはどこがいいかな?」
「やっぱり十条駅か?」
「わかった。十条駅ね」
「時間はいつにするんだ?」
「午前中がいいな」
「そうか、わかった」
初めて交わした、九条との約束。忘れないように、僕はスマホのメモ帳に記しておいた。
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