4人が本棚に入れています
本棚に追加
Chapter 26 九条が家にやってきた①
まだ朝だというのに、水色の空の上で太陽が強く輝く午前9時。十条駅の前で、僕は九条を待っていた。
「おまたせ」
黒いクロスバイクに乗って、九条はやってきた。
紺色の帽子を被り、白いノースリーブのシャツに膝ぐらいの丈がある短パン。高校生だと知らない人から見ると、少し背の高い小学生に見間違えてしまいそうだ。
「おはよう。じゃあ、行こうか」
「おう」
九条は近くにあった駐輪場に自転車を置いていき、僕のいる駅前へと戻ってくる。
赤羽駅で僕と九条は降りた。乗り換えのためだ。
僕の通学路は、自宅から徒歩15分ほどしたところにある浦和駅から、上野東京ラインに乗り、ここで埼京線に乗り換える。乗れなかった日は京浜東北線に乗ってここまで来る。そして十条駅で降り、徒歩で10分ほど歩いていく感じだ。時間に余裕がある日は自転車に乗って、乗り換えなしで行ける武蔵浦和駅から通学している。
いつも武蔵浦和から通学したいとは思うが、早起きと自転車を漕ぐのが面倒なので、前に挙げた二つのルートから赤羽で乗り換えている感じだ。
電車の待ち時間。九条は意外そうな顔で、
「誠って埼玉に住んでたのか」
とつぶやいた。
埼京線の大宮行きに乗っていたの見ていたのだから、いい加減察しろよ、と僕は思った。だが、冷静になって考えると、大宮行きの電車に乗って帰っているから埼玉住み、と考えるのも無理がある。なぜなら、赤羽で乗り換えれば、京浜東北線なら王子や田端、上野東京ラインならば尾久の方にも行けるからだ。それに、仮に乗り換える必要がなかったとしても、北赤羽や浮間船渡で降りてしまうこともあり得るのだから。
「そうだよ。浦和の方だね。九条はどこに住んでるの? 自転車で来てた、ということは、北区? それとも隣の板橋や豊島区の辺り?」
僕は九条の住んでいるところについて聞いた。北区、板橋区、豊島区を候補に入れたのは、九条が自転車でここまで来ていたので、きっと近くに住んでいるのだろうな、と考えたからだ。
「豊島区かな。場所をダイレクトに言ってしまうなら、椎名町の辺りか」
「へぇ。結構学校から近いんだね」
「おう。たまに自転車で帰ってることがあるが、そういうことだ」
「ふむふむ」
九条はポケットからスマホを取り出し、通知を確認する。そのときの様子は、見えない何かに怯えているようにも見えた。
「ふぅっ・・・・・・」
大きな吐息を吐いた九条は、スマホを再びポケットの中へとしまった。
念のため、どうしたのか聞いておきたかった。だが、前みたいに関係がこじれるおそれがあったので辞めた。
最初のコメントを投稿しよう!