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Chapter 27 九条が家にやってきた②
浦和駅を降りた。
暑いのが嫌な僕は、目の前の停留所に停まっていたバスに乗って移動しようと思い立った。だが、九条が電車賃しか持っていなかったので、家まで歩くことに。
時刻は午前10時。昼前の太陽は恐ろしいくらいに眩しい光を放ち、家々が密集する住宅街へと降り注ぐ。鼠色や紺色のアスファルトで日光が反射しているせいか、何倍も眩しく、暑く感じる。
「暑いよ、誠」
流れ出た汗をハンカチで拭きながら、九条は言った。舌を伸ばしている様子は、散歩をする犬のようだ。
「歩いて10分なんだから我慢して」
「そう言われてもな・・・・・・」
「すぐそこだから。頑張って」
あっさり注意と激励をしている僕。だが、九条の気持ちもわからなくはない。少し歩くだけでも、湧き水が地面からしみ出すように、汗が毛穴からどっと溢れ出てくるのだから。今になって、自分の持っているお金をバス賃として九条に渡し、目の前に停まっていたバスに乗ればよかったと後悔している。
九条を励ましながら歩いているうちに、僕の家に着いてしまった。
僕の家は、駐車場付きで、2階建ての白い壁が特徴的な庭なしの家だ。ちなみに父さん曰く「借家」だそう。
「ここが誠の家か・・・・・・」
神妙な顔つきで、東条家の家屋を眺める九条。
「いや、なんか、狭いな、と思ってな」
「じゃあ帰れ」
「何なんだよ、お前から誘っといてそれはないだろ」
「人様の家に来て、狭いな、と平然とした口調で言うお前のモラルってどうなのって話だよ」
「勝手に話反らすな」
「まあいいや、暑い中来てくれたんだし。暑いでしょう? だから、早く中入って涼もう」
「おう」
うなずく九条。
僕は家の戸を開け、母さんを呼んだ。
母さんは廊下を走って、玄関まで向かい、
「君が九条くん?」
と後ろにいた九条に聞いてきた。
「ええ。そうです。誠くんにはいつもお世話になってます」
「あら、そう。この子、よくわからないでしょう? いっつも一人でいるし」
「全然そんなことはないですよ。むしろいろいろわかりやすいです」
「そう。暑いから、上がっておいで」
「失礼します」
そう言って九条はお辞儀をした。斜め45度に曲げた、きれいなお辞儀。そしてお辞儀の後には、靴をしっかり揃え、家の中へ入った。
──こんな礼儀正しい九条は見たことがない。本当に九条本人なのか?
礼儀正しい九条を見た僕は、衝撃を受けた。
僕の知っている普段の九条は、わがままでいい加減でがさつで、すぐに怒る、小学校低学年の子どもの身体を大きくしただけのような少年。そんな九条にいつも、僕は振り回されている。
だが、その九条が目の前で、礼儀正しく挨拶をしている。
人には意外な一面があるんだな。そう思いながら家の中に入り、靴をそろえる僕。
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