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Chapter 28 九条が家にやってきた③
九条を僕の部屋へと案内した。同級生を家に上げるのは、小学校6年生のとき以来だろうか。
僕の部屋に初めて入った九条は、
「思った通り味気ない部屋にいるんだな」
とつぶやいた。
味気ない部屋。そう言われてみれば、僕の部屋にはさして目立った特徴はない。学者の部屋のように、本が山積みにされているわけでもなく、かといって、ヲタクの部屋のように部屋中フィギュアだらけなわけでもない。ただ本棚に遊んだゲームと漫画本、文庫本が並べられ、年季の入った学習机の上にはデスクトップパソコンが置かれているだけだ。あと部屋にあるものといえば、椅子とベット、通学に使っているカバン、制服ぐらいだろう。
「ものがあるだけ、無駄だからな」
「そういえば誠」
「ん?」
「アニマルビデオって知ってる?」
忘れ物を思い出したかのように、九条は聞いてきた。
「アニマルビデオ? 動物のドキュメンタリーのこと?」
「そうか。なら、薄い本は?」
「薄い本?」
意味がわからない。
というよりも、僕はMHKで放送しているファーブルが来たを見るほど動物好きではないし、求人誌を集めてそれを隅から隅まで読むような変人でもない。ただ『どうぶつフレンズ』は見ていたが。
「ねぇ、さっきから言ってる『アニマルビデオ』とか『薄い本』って、何なの?」
そう聞こうとしたとき、九条は、
「こういうところに隠してあるんだけどな。AVとかエロマンガって」
ベットの下にある棚に手を伸ばし、何かを探しはじめた。
──アニマルビデオと薄い本……。あ、AVとエロマンガのことだったのか!
九条が先ほどした質問の答えがやっとわかった。確かに、「アニマルビデオ」という単語をアルファベットで表記し、頭だけを取ると「AV」になる。それに、エロマンガは大体ページ数が少ないので、大体薄っぺらい。
だが、残念ながら僕はその類いのものは、ネットで読んでいる。だから、どこを探しても、エロマンガやAVの類いは見つからない。
「ちょっと九条、何やってんだよ! そんなもの、僕の部屋にはないって!」
必死になってエロマンガとAVを探す九条を止めた。
「あるんだろ! ここに!」
「いや、ないから」
「ある、絶対にある!」
ベットの下の棚やクローゼットを血眼になって九条はエロマンガやアダルトビデオの類を探す。
普通の会話だったら、僕はアダルト関係はネットで見る派でね、と説明できるのだが、今の九条には通じなそうだし、何より説明自体が恥ずかしくてできないので、
「だから、辞めろって。部屋が散らかるだろ!」
とクローゼットの前から強引に九条を引き離した。
「見つからない、見つからない……」
引き離そうとしても、必死に探し続ける九条。
「さっきも言ったが、ここにはエロ関係のものはないぞ」
「ということは、誠、ネットでエロ動画とか見てるのか?」
と九条は真顔で聞いてきた。
数分間の間、固まる僕。
少し気まずい感じの空気が、衣類で散らかった部屋の中に流れる。
「それよりも九条、これ片付けてくれないかな?」
僕は散らかった衣類を指さした。
「えー、めんどくせ」
ため息をつきながら答える九条。先ほどの礼儀正しさはどこへ行った。
「片付けないと追い出すぞコノヤロ?」
握り拳を作り、やや低めのドスの効いた声で、僕は言った。
「わかりやした、片づけますから、お命だけは取らないでくだせぇ」
悪代官からの年貢の取り立てに怯える農民のようなか細い声で、許しを請う九条。
「わかってくれたなら、それでいいんだ。ほれ、片付けるぞ」
こうして僕と九条は、床に散乱した衣類を片付けるのであった。
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