第一章 夢を守る仕事  悪夢の襲来

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第一章 夢を守る仕事  悪夢の襲来

 西暦3000年。ロボットによる自動化、AIによる情報処理によって全てが簡素化された現代では、様々な情報が行き交い便利になった反面、情緒を感じさせる物や出来事、人による暖かいサービスも確実に減ってきている。便利な世の中の裏で、多くの生命の源である自然も、表舞台から着実に姿を消し始めていた。  街は無機質な鉄で囲まれ、設けられた高い鉄の壁はまるで自然から遠ざけるように人々を隔絶していた。  人々の心は自然を忘れ、合理的思考が正義となっていた。 「自然は生命の源だ。人の心を育てるのも自然だと思っている。全てを簡素化することが正解だとは思わない」  そんな世の中に反発してそう言い続けた一人の科学者がいた。  大門英樹(だいもんひでき)。科学者である彼がそんな事を言うのはあまりにも頓珍漢で、皆彼のことを変わり者と呼んでいた。それでも彼は、生涯それを唱え続けた。  しかし皮肉にも、彼を変わり者扱いした人々は彼に救われることとなる。  西暦3023年。"それ"はゆっくりと影を忍ばせていた。  窓だけが並ぶ白い空間。その空間にプロジェクターのように映し出された様々な景色や思い出の情景を、まるでご飯を食べるように、クチャクチャと音を立てる魔物。象のように長い鼻、サイのような目、筋肉質な胴体に、虎のように鋭い爪を携えた太く逞しい脚。  そして、最後は自分すらも喰らい尽くされてしまう。  そんな悪夢を多くの人が同時多発的に見るようになった。そして、個人差はあれど必ず目を覚まさなくなるのだ。 「不治の病」「呪い」……。様々な憶測が情報社会を飛び交い、世界は混乱を極めた。発展した最高峰の科学ですら説明できない得体の知れない状況に人々は怯え、まじないや祈祷など、非科学的なものに縋るようになっていく。  そんな中変わり者の彼だけは冷静に分析し、科学の力を持ってその魔物と対峙する装置を創りあげた。  約三年間という、途方も無い研究の結晶とも言うべきその装置は、眠った人々の夢――つまり心をデータ化し、自身の肉体をもデータ化することで心へと介入するというものであった。  その装置を用いて夢の中へと入った彼が見たのは、あまりにも非科学的な強大過ぎる力だった。  魔物の正体は、悪夢を喰らうという言い伝えが根強く残る、"(ばく)"と呼ばれる妖獣。厄除けの象徴として神格化されているはずの獏は、ただひたすらに人々の心を喰らい尽くす魔物と化していた。  心の隙間に入り込み牙を剥く。自然を忘れ、荒んだ人々の心につけ入ることなど、容易いことだったのだ――。  獏は見た目の獰猛さに加えて、性格も凶暴で、彼を見つけるやいなや引き裂こうと一直線に向かってくる。何度も引き裂かれそうになった。それでも彼は心の中に入り、人々を救うのをやめることはなかった。  科学の力を持って非科学的な力と戦う彼を人々はいつしか、Dream(ドリーム) Doctor(ドクター)――通称D.Dと呼ぶようになった。獏から夢を守る彼の姿は、人々からすればまるで医者のような存在だったのだ。  手のひらを返したように彼を祭り上げる世間の反応など全く気にすることなく、彼はただひたすらに人々を救い続けた。生涯を終えるまでの約五年間、彼は戦い続けた。  大門秀樹 Dream Doctor (享年五十一歳)――。早すぎる死だった。獏を全て倒し、人々が笑って暮らせる世の中に戻す。その願いは彼の三人の若い弟子たちへと引き継がれていくこととなる。  夢を守るのが俺たちの仕事だ。  これは、一人の変わり者の科学者の夢のため、夢を守る弟子たちのお話。
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