ふたりぼっち

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 仏教でもキリスト教でも食べ物や着る物に拘泥してはいけない、贅沢にしてはいけない、必要以上に求めてはいけないと質素にすることを奨励している。だから過剰なお洒落も美食も否定していることになる。何故だか拓郎には分かる気がする。彼は貧乏だ。だから過剰なお洒落も美食も出来ないし、またお洒落をするだけの金が有っても男は中身で勝負だと思っているからしようともしない。となると大半の人間は金力に弱いし皮相浅薄だから拓郎は女に持てないのは素より男にも持てない。そればかりか皆に冷たくされる。差別される。つまり過剰なお洒落も美食も肯定したら拓郎みたいな弱者敗者を生むから弱者敗者を救おうとする真髄を持った宗教は、くだんのように諭すのだと拓郎は思うのだ。  そんな彼は見るからにお洒落なカフェでお洒落して食事をする者たちが楽しそうにしているのを見ると、あいつらはあいつらの間では皆、いい人なのだろうが、俺に対しては冷たい人だと思うのだ。  当然、彼はお洒落にも美食にも良いことだとして金をかける者を軽蔑し、そういう奴程、名声や権力や財力や栄達を尊ぶ俗物だと鑑定するのだ。そして深海に人知れず住むダイオウイカのように欲望が冥々の裡に巨大化する俗物程、俺に冷たくなるに違いないと思うのだ。  拓郎は元々奥手な男だ。と言うより時代錯誤な男だ。その所為で大学受験の時、時代遅れな格好で試験場に赴くと、高校の時、同級だった者にだっせえと言われ、笑われ、その隣者が拓郎に同情して、おい、やめろよとくだんの者を掣肘したが、後者も同級の時、拓郎と友達になろうとはしなかったのだ。それと言うのが拓郎と仲良くすると、自分も仲間外れになるからであった。  要するに拓郎は浮いた存在だった。ずっと孤独だった。皮肉なことに正直な面が祟って世渡りが上手く行かないし、お世辞だの綺麗事だのといった虚偽や偽善だの詐欺だのといった欺瞞が弥漫する不正不条理に満ちた世を憎むから猶更孤独になるのだった。だから彼は孤独になるのは自分が間違っているのではなくて世の中が間違っているからだと考えるに至り、俺はとことん独りぼっちになってやると出家することも考えた。何せ無欲枯淡な質なので。と言ってもシノニムではないから芸術欲はあるし、女が欲しかった。それも千鈞の女が・・・
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