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偽聖女、凛子の異世界転移が完了すると光は収束し魔法陣の文字も全て消えていき、異世界への扉は完全に閉じた。
何事も無かったかの様に静まり返るホール内で、ファンデルが身動きする衣擦れの音だけが聞こえた。
笑みを消したファンデルはジークフリートへ首を垂れる。
「申し訳ありません陛下。つい力の加減を間違えてしまいました。喉ではなく顔の半分を潰して帰してしまいました」
「フッ、まぁいい。自分の容姿に絶対の自信を持っているあの女には、顔が潰れて生きることは地獄に等しい日々となるだろう。サヨを追い詰めると言っていたが、己の事で手一杯になり何も出来まい」
手放したくない愛しい娘が元の世界へ戻れないように、居場所を無くしてもらえるのは好都合だとしても、凛子の発言は許せるものではない。
ファンデルが動かなければジークフリート自らが手を下していた。凛子の命を奪わない代わりに、顔を潰された方が幸せだと思えるような、恒久に続く苦痛を与えるつもりだった。
「俺のサヨを愚弄したのだ。彼奴らと同じく、苗床にしても良かったのを帰してやっただけでも、有難く思え」
ジークフリートの怒りは呪いと成り異世界へ戻った凛子へと降りかかる。今後、紗代の名を口にする度、悪意を示そうとする度に崩れた顔に激痛を与える呪い。
呪いが定着したのを確認し、口角を上げたジークフリートは不要なモノだと、直ぐに凛子の存在を意識から切り捨てた
***
あたたかな陽光が降り注ぐ庭園のベンチに座り、紗代は夢中になって歴史書を読み耽っていた。
自分を囲う檻が着実に完成しつつあるのを知らない無知な紗代は、和平のために必要だというジークフリートの言葉を信じ込みこの世界の知識を増やしていく。
気配を消して紗代の背後へ回ったジークフリートは、彼女の読んでいた本を掴み手の中から抜き取った。
「わぁっ!?」
「偽聖女は元の世界へ帰したぞ」
「ジーク君、吃驚するから急に現れないで」
驚きの声を上げた紗代は背凭れに凭れ掛かり、深呼吸をして乱れた呼吸を整える。
「良かった。凛子さん戻れたのね。ジーク君、私は」
「駄目だ」
最後まで言わせないよう、ジークフリートは紗代の言葉を遮った。
「帰りたい」などと言われたら、衝動的に用意してある檻の中へ彼女を閉じ込めてしまいそうだった。
「ま、まだ何も言っていないよ」
「聖女殿が俺の傍らに居ること、それが和平の条件だろう?」
体を捻って振り向いた紗代の頬へ身を屈めたジークフリートは手を添え、片眉を上げた意地の悪い笑みを向ける。
「落ち着くまで、じゃないの?」
「和平のためにはサヨが必要だ。サヨが居ない世界など不要だ」
長きにわたり欲し、ようやく手に入れた聖女。
紗代が元の世界へ戻ると言うのならば、和平を終わらせ世界中に向けて宣戦布告してもかまわない。
「お、横暴」
「では、嫌いになるか?」
「うう、嫌いには、なれない」
その答えに満足したジークフリートは、紗代の前髪を指で掻き分け露わなった額へ口付けを落とした。
恥ずかしさから全身を真っ赤に染め、きつく目蓋を瞑る紗代は知らない。
初恋を拗らせたジークフリートの強過ぎる執着心を。
欲しいと自覚した瞬間から、元の世界へ帰すつもりも自分から逃してやるつもりは微塵もないということを。
三日後の戴冠式で紗代を妃に据えると宣言し、ジークフリートと契り魔力を胎内へ注がれれば異世界人の彼女の肉体と魂はこの世界に完全に縛られるということを、今はまだ知らせるつもりはない。
(俺からはもう離れられないと知ったら、紗代はどんな顔をするのか。楽しみだな)
両手で弾力のある紗代の頬を弄びながら、ジークフリートは内心ほくそ笑んでいた。
***
【聖女召喚に巻き込まれたオマケ女子、ショタ魔術師の家政婦になります】はこの話で完結となります。
紗代とケルベロスに癒やされながら、可愛い下着を想像するのは楽しかったです。
ここまでお付き合いください、ありがとうございましたm(_)m
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