15.家政婦女子が巻き込まれた理由

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 話し終わり魔法から解放されたヘンリックは、一気に言葉を発した喉の痛みに顔を歪め首を押さえる。  げほりっ、咳き込んだ彼の口元は吐き出した血で赤く染まっていた。 「うそよ……そんな、私を騙していたの? ……あはは、この私を!?」  足元をふらつかせて膝から崩れた凛子を支える者はいない。  騙されていたと知った衝撃と山よりも高いプライド、抱いていたヘンリックへの恋慕を木っ端微塵にされた凛子の瞳に涙の膜が張っていく。  殆どの男を虜にするだろう凛子の哀れな姿。  神官は彼女の元へ駆け寄ろうとするが、脚が激しく痙攣して動かなかった。  涙を流し縋る様に伸ばした手を取ることもなく、魔術師は片眉を上げ凛子へ微笑みかける。 「ドロシーとは、高位魔貴族へ取り入り彼等を唆し国家転覆を企んだ者。魔国でも彼女の行方を捜していたのです。ラスピア王国へ逃げ込んだと知り、私は魔術師として魔術師団へ潜入していました。聖女召喚を邪魔することも出来たのですが、魔女と王子の動向を知りたくてあえて邪魔はしませんでした。召喚された貴女が嬉々として王子の手を取ったので、貴女を助けるのは止めました。貴女の取り巻きだと勘違いされるのも嫌だったのでね。それに、私にはあの方を守る役目もありましたし、」 「そんな、殿下ではなく貴方が手を差し伸べてくれていたら、私はっ」  向けられた微笑みに頬を赤らめた凛子は、魔術師のローブを掴む。 「くっ、はははっ」  突然、壇上のジークは腹を抱えて笑い出した。 「そいつに泣き落としは効かぬ。聖女ともてはやされていたお前は、まんまと王子と魔女に踊らされていたというわけだ。くくくっ、哀れだな」  哀れ、という言葉を聞いた途端、“可哀想な女性”だった凛子の雰囲気が一変した。 「私が哀れですって……」  掴んでいた魔術師のローブから手を離した凛子はゆっくりと振り返る。  悲しみと恥じらいで赤くしていた頬は、今度は怒りで赤らみ目を吊り上げてジークを睨み付けた。 「それでも聖女として召喚されたのは私よ!! 聖女の私がこんな屈辱を受けるだなんて!! 許せないわ!!」 「フンッ、誰が聖女だと? 聖杖を使えないお前は聖女ではない」 「なんっ!?」  拳を握り締めた凛子が叫ぼうとした時、背負っている聖杖を括り付けていた紐がハラリと解け、彼女の背中からジークの元へ一直線へ聖杖が飛んで行った。 「正当なる持ち主へ渡してもらうぞ」  パチンッ  ジークが指を鳴らすと、壇上の端にある柱の影に隠れていた紗代とケルベロスが彼の隣へと出現した。 「ふえ?」  傍観者に徹していた紗代は、景色の変化について行けず辺りを見渡して大きく目を見開いた。  目の前へ飛んできた聖杖に、目を瞬かせつつ反射的に触れる。  パアアアアー!!  指先が触れた瞬間、白色の光が聖杖から放たれ紗代を包み込む。  黒ずんだ銀色の杖は輝く白銀の輝きへと変わり、先端の玉は漆黒から青空を思わせる青色へと変わる。玉の固定部は鳥が翼を広げた形へと変化した。 「聖杖が有るべき姿へと戻った。お前が真の聖女だ。サヨ」 「……私が?」  呆然と呟く紗代は変化した聖杖をそっと握る。  あたたかな魔力が聖杖から自分の中へと流れ込んできたのが分かった。 「聖杖が真の姿を取り戻したことが聖女である証拠だ。召喚に巻き込まれたのは、オマケだったのは、あの高慢な女だ」  淡々と告げるジークの方を向き、紗代は眉尻を下げた。 「ジーク君、あのね、私、話についていけないのだけど、うっ」  横を向いた紗代は口を開けて固まった。  玉座に沈む首の無い魔王の遺体をハッキリ見てしまい、紗代の顔から血の気が引いていく。 「ああ、悪い。消し忘れていた」  全く悪びれていないジークが言い終わる時には、玉座から魔王の遺体は消えていた。 「聖女召喚は成功していた。聖杖の力を使った召喚式で、当代の聖女である紗代が召喚されていたのだ」 「私が、聖女? でもどうして凛子さんが……それに、」  聖杖を両手で持った紗代はジークを見詰める。 「ジーク君は、誰……なの?」  圧倒的な魔力を持ち、魔術師の青年よりも立場が上だということは二人のやり取りで分かった。彼が真の魔王だったというオチなのかもしれない。  “ジークフリート”と呼ばれた、偉大なる魔術師様は何者なのか。  返答を待つ数秒間、聖杖を握る紗代の手に力がこもっていった。 *** 真の聖女は紗代でした。 ジーク君の正体は次話で分かります。
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