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三年前の六月。祖母がとうとう亡くなった。当時大学三年生だった私は、報せを聞いてすぐさま新幹線のホームに向かわざるを得なくなった。三〇八号室、他の患者と共に「鍛治岡きく」の名が並ぶ病室に入る。祖母の、まるで何かから解放されたような死に顔を見る。
祖母の容態が思わしくない、と母から電話が来たのは、確か命日から二、三ヶ月前だろうか。もともと厄介な持病があった。母の求めで実家に向かい、祖母のいる病室に初めて入り、見るからに弱った祖母を見る。「奈々子」と私を呼ぶ祖母の声は、かつての快活さのかけらもなく弱々しかった。
葬式では、みんな大体泣いていた。お弔いが一段落し、帰りの新幹線の中、もやもやとしていた想いが行き場のない怒りになった。
母は祖母によって壊れてしまったようなものだ。
生地のデザイナーである私の母は、若い頃に祖母の監視の下、技能を磨いていった。娘に手に職を付けさせようと必死だったようだ。母は仕事熱心だが、私からすれば、代わりに人間として大事な何かが欠落してしまったように見える。
祖母は永遠にいなくなってしまった。もう、祖母に怒りを伝えるすべはない。
窓からふと見た景色は、真っ暗な空だった。月がひときわ輝いて見えた。
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