【弟子入り志願】

1/1
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

【弟子入り志願】

・ ・【弟子入り志願】 ・ 「リュートさん、私を魔法使いの弟子にして下さい!」 「えっ、面倒だけども」  即答したリュートさん。  あまりにも冷たく言い放ったので、私は少し肩を落とした。  いやでも一回断られただけで諦めるのは絶対無いので、私はリュートさんのほうへ一歩踏み込んで、 「リュートさんが私を弟子にして下さったら、毎日作りますよ! 具現化魔法で料理!」  私のその言葉にちょっと心が揺らいだように見えたリュートさんに、さらに私は猛攻をかける。 「料理はこれだけじゃありません! お肉は勿論魚もサラダも何でも作ることができます! しょっぱいモノも酸っぱいモノも甘いモノでも何でもござれです! どうですか! もっともっと食べたくないですかっ!」  分かりやすく体をぐらぐらとグラつかせているリュートさん。  しかし急に自分の頬をパンパンと叩いたと思ったら、すぐさま宙に浮きだして、 「俺はもう風の魔法で帰るから、じゃあな」  と言って振り返ったところで、私はリュートさんの体を後ろから抱き締めた。  その刹那、私の体は、まるで竜巻に飲み込まれたようにキリモミ回転し始め、リュートさんの体からはあっという間に離れて、そのまま空高く放り出された。 「うわぁぁああああああああああああああああ!」  叫び声を上げてしまう私。 「何やってんだよ!」  そう言いながらリュートさんは私のところへ飛んできて、私をお姫様抱っこしてそのまま地面に降りた。 「怖かったぁぁぁぁあああああああ!」  声を上げる私を優しく地面に降ろしてリュートさんはこう言った。 「風の魔法を使っている時に近付くな! 俺しか飛べないようにしてんだから近付いたら危ないだろ!」 「でも、でも、だってぇぇええ」  私が情けない声を出すと、リュートさんは溜息をついてから、私へ指差しながらこう言った。 「魔法の初歩的な初歩も分かっていないヤツを弟子にする気は毛頭無い」 「でもこれから学んでいけますから! 知ってますか! 人間は学んで強くなるんですよ!」  これは好きな漫画『グルメは一日してならず』の主人公・浦島圭吾くんの台詞だ。  私は漫画に共感したなら、そういった人物になるべきだと思っているので、漫画の主人公のような行動がしたいと思っている。  まさにここが分水嶺だと思うので、私は是が非でもしがみつく。 「リュートさん! お願いします! 魔法を教えて下さい! 何でもしますから!」  周りの、ハンバーグを食べ終えた人たちも私の言葉を後押ししてくれた。  でもリュートさんは首を縦に振ることは無く、 「面倒なんだよ、人と関わることは。たまに俺がこの村に買い物しに来るから、その時に料理でも作ってくれよ」 「私が住み込みで弟子になれば毎日料理作れますよ!」 「だから嫌だって言ってるだろ! まあいいや、会話する必要も無いか、俺はもう行くから。次は助けないからな」  そう私を睨んで、ゆっくりと宙に浮きだしたリュートさん。  もはやこれまでか、いやでもまた来た時に頼み込めば、とか思ったその時だった。  何だかリュートさんの見た目に違和感を抱いたので、言ってみることにした。 「リュートさん! 何か忘れていませんか!」 「何だよ、うるせぇな、俺が何を忘れたと言うんだよ」 「きっと今日、この村に買い物しに来たんですよねっ? その割には荷物のようなモノがあんまり無いですけども!」  リュートさんは静かに地面へ足をつけ、恥ずかしそうに顔を赤面させながら、 「そうだった」  と言った。  あっ、この人、ドジだと思った。  そこが攻め場所だと思って、特に家事の話をし始めることにした。 「私がいつも傍にいれば料理は勿論、家事全般も全てこなせますよ。欲しいモノを出現させることも可能で、もしかしたら買い物に来る必要も無くなるかもしれません。リュートさんはきっと掃除が苦手なんじゃないんですか? 私は掃除することが得意ですし、植物を育てることもできます。服の修繕だってできますし、そもそも服だって新しく作れます。どうですか? 家政婦だと思って雇ってみてもいいんじゃないでしょうか? 給料の代わりに魔法を一日一時間教えるだけ。たったそれだけですよ! ドジのリュートさん!」 「ド、ドジって言うなよ……」  リュートさんは怯んだ、つまり効いているような感じがする。  ここで一言ガツンといく! 「本当に何でもします! 否! 何でもできます! 弟子にして下さい!」  腕を組んで「うぅ~」と唸っているリュートさん。  どうにか弟子にするほうを選んでほしい!  私が具現化魔法を使えば、世界中の人が喜んでくれるに違いない!  それにまあなんというか、イケメンと二人暮らしというのも悪くないしな……と思ったところでリュートさんが、 「なっ、何怪しく笑っているんだよ……」  と言ってきたので、私の良くない部分が顔に出てたと思って、すぐさま普通の笑顔を作った。  友達のいない高校生とはいえ、笑顔を作ることは造作も無いこと。  ……と言っても、この笑顔はもしかすると本当の笑顔かもしれない。  現状、美味しい料理を食べるには、具現化魔法を使わせてもらわないと食べられないから。  とにかくリュートさんと一緒に住むことは、全ての欲を満たすことになるはず。  だからこの勝負は譲れない! 「ほら! 私が何か怪しい行動とったらリュートさんは魔法で撃退すればいいだけですから!」 「何それ……怪しい行動、とるの……?」 「いやとりませんけどもね! とるんだったら、こんな仮定の話をしませんよ!」 「そ、そうだよなぁ……いやでも……」  どこか訝し気な表情をするリュートさん。  いや確かに 「私に怪しいところはあると思います! でも! でも! 魔法を使えないことは見てくれれば分かることなので! この世界で魔法を一切使えない状態でこの年齢になっていることって珍しいことですよね!」 「まあ、それは珍しいことだけども」 「じゃあ大丈夫じゃないですか! すぐ撃退できるじゃないですか!」 「えっ? 襲ってくるの?」 「襲わないですけども!」  何だこのリュートさんって、何か話が堂々巡りになるな……ドジでちょっとだけアホなのか?  まあそれは別に気にしないほうだけども。  とにかく 「弟子にして下さい! どんなこともできます! 運動神経だって悪いほうじゃないです!」  そう、私は走り込んでいるし、そもそも俊敏性も悪くないのだ。  ただスポーツのように自分で競う行為が嫌いで、運動部には入っていなかったけども。見るのは好きだけど。  リュートさんは何かを決心したかのように、気合いを「ハッ!」と入れると、 「よしっ! 分かった! 弟子にしてやる! ただし俺の命令は絶対だからな!」  と叫んだ。  それに周りの人たちも喜んでくれる。  なんて良い人たちなんだ。  私は周りの人たちを盛り上げるために、こう言ってみた。 「私が具現化魔法を使うことができるようになったら、この村を潤わせますから!」  さらに盛り上がる村の人たち。  それに対してリュートさんは、 「うまくいくといいがな」  そう言いながら、私をお姫様抱っこしたので、 「えっ、急にどうしたんですかっ!」 「そりゃオマエごと風の魔法で家へ帰るに決まってるだろ」  リュートさんはそう言ってから、直立不動のような体勢のまま、ビューンと空高く飛んだ。  私はなんとなく、魔法使いは箒に乗るイメージがあったので、 「何か道具に乗ったりしないんですね」  と言ってみると、リュートさんは、 「道具を媒介にして飛ぶヤツは三流だよ」  と言った。  確かにそうかぁ、と妙に納得してしまった。  飛んでいる最中に私はリュートさんから、こんなこと言われた。 「そう言えば、オマエ、誰? 名前あるの?」  そうだ、まだ名乗っていなかった。 「私はユイと申します。よろしくお願いします」  するとリュートさんは頷きながら、 「短くて覚えやすいな」  と言った。  何だそのバカの台詞は、と思った。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!