【異界の地】

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【異界の地】

・ ・【異界の地】 ・  何だか言い合いが聞こえる。  助けないと人道的にダメだろ、とか、これ以上人が増えても無いぞ、とか。  何だろうと思いながら目を開けると、そこは板の天井が見えた。  私はどうやらベッドの上で寝ていたらしいが、明らかに現代の病院ではない。確実に木造だ。  さらに私の周りには、アフリカの原住民のように布を体に巻いた人たちが言い合っていた。  しかし喋る言葉は何だか分かる。  時折よく分からない、認識できない横文字も聞こえてくるが、基本的には分かる。  これは一体どういう状況なんだろうか。  病院だと仮定するには、ちょっと古びた木造特有のカビクサい匂いもするし。  島に一件しかない診療所的なところ? でも私は間違いなく大都会である東京にいたはず。  八丈島とかも東京だけども、そういうところじゃなくて、私は二十三区内にいたはず。  そんなことを思いながら、上体を起こすと、周りの人たちがバッとこっちを見た。 「起きたか! 大丈夫か!」 「あっ! いや! 増えてもとかはほら! でも分かるだろっ? あっ? いつ起きた? 今、直後かっ?」 「いやぁでも良かったねぇ!」 「追いはぎみたいなヤツに遭わないで運が良かったな!」 「俺たちの村は治安が良いからねぇ!」  矢継ぎ早に喋りだし、誰に何を対応していいか分からず、私は黙ってしまっていた。  すると、白いヒゲを蓄えて一番偉い人みたいな雰囲気のダンディな男性が、手を何回か叩き、周りの人たちを静めた。  ダンディな男性がゆっくりと口を開いた。 「君は何者なんですか? そんな高位どころか見たこともない服を着て、所持しているバッグの中は一応確認させてもらったが、意味の分からないモノばかりです」  そうダンディな男性が言うと、ベッドで上体を起こした状態の私に一人の男がバッグを手渡してくれた。  確かにチャックは開いていたが、中身を軽く見ると、何か減っている様子は無い。 「もしかすると、街から逃げてきた王女ですか? わたしたちは君を匿って大丈夫なんですか?」  王女? 私が? いやいやいや何、日本に王女とかいたっけ? 天皇のこと言ってるの? いや何か違う、全然違う……違う!  この建物の中に窓があったので、そこから外を見ると、まるでサバンナのように何も無い広大な大地が広がっていた。  本物のサバンナと違うところは、転々と木造の小屋のようなモノがあるところ。  この周辺にはビルはおろか、コンクリートさえもない、異界の地だった。 「ここどこですか!」  私は咄嗟に叫ぶと、ダンディな男性が、 「もしや記憶喪失かもしれませんね……それならある程度は合点がいきますね……」  と白いヒゲを触りながら、そう言った。  周りの人たちが心配そうに、 「匿って大丈夫か?」 「だからって放置できないだろ」 「そうだよ、俺たちが助けてあげないでどうするんだよ」  とりあえず性格は良さそうな人たちでホッとしつつも、私の返答に誰も答えてくれず、あわあわしていると、この建物の中に誰か入ってきた。  この建物は結局、窓の外に見えた木造の小屋のように、この私が寝ていた部屋だけしかない建物らしく、部屋と玄関が直通になっていた。  その玄関から入ってきた人が、 「ラッキーだ! リュートが来たぞ! 何かヒントもらえるかもしれないぞ!」  その声に周りの人たちは勿論、長老みたいな人も大いに沸いた。  ダンディな男性はすぐさま、 「リュートを呼んでくれ! この者の記憶喪失が治るかもしれない!」  私は記憶喪失で確定なんだ、と思いつつも、変に混乱するようなことも言わないほうがいいと思い、黙って見ていた。  周りの人たちはワッと外に出て行った。  きっとリュートという人を説得しに行ったに違いない。  そしてそのリュートという人は多分高名な人格者とかで、かつ、賢者のような人なんだろうな。  部屋に残ったダンディな男性はこう言った。 「リュートさんが来ればきっと大丈夫です。安心して待っていて下さい」  ……とにかくこの村の方々が、いい人そうな感じなので、助かった……。
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