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【夜】
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・【夜】
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「掃除、終わったか?」
モップで水拭きする私の目の前に現れたリュートさんは、やけにクールぶっていた。
いやそれでさっきまでの変態的な声、ナシにならないだろう、と思った。
そもそも口の周りにめちゃくちゃ生クリーム付けてるし。
「口に生クリームついていますよ」
「えっ、どこ? というか付いたりするヤツなんだ」
私はリュートさんに付いた生クリームを指でとると、リュートさんはすぐさまその私の指から指で生クリームを奪って、
「あめぇぇええええええええええええええええええええ!」
と叫んだ。
いや、指から即奪うなよ、まあ別にいいけども。
とにかく
「生活するには道具が足りなさすぎるので、どんどん具現化魔法を使わせてもらっていいですか?」
「勿論だ!」
そして私は食器から始まり、水汲み用のバケツ、雑巾も、自分用の寝袋を出したあとに、あっ、と思って自分用の豪華なベッドを出したところで、
「何だよこれ……ふかふかじゃん! 俺のモノにする! これぇぇぇえええ!」
「いやまあ具現化魔法を使わせてもらえればいくらでも作れますけども」
「魔法ってすげぇぇええええええええええええ!」
「それ本来私が言う台詞です……」
そんな感じで、どんどんいろんな道具を出していったら、いつの間にか夜になっていた。
私はテーブルとイスがある部屋にベッドを置いて、そこで寝ることにした。
寝る部屋は別々、区切りとしてちゃんとドアもあるので、安心して寝ていると、夜、ドアが開く音がした。
えっ、もしや夜這い? と思って、何だか額から汗がぶわっと出てきた。
いやいやいやいや、何でもするとは言ったけども、そんなこともしないといけないとは、いやちょっと、と思っていると、リュートさんがハッキリと声を出した。
「あったかいモノが食べたい」
私は出現させていた、握ることにより発電する懐中電灯でリュートさんを照らすと、お腹ペコペコみたいな表情をしたリュートさんがそこに立っていた。
いや
「あったかいモノって何ですか……」
「あぁ、そうか」
とリュートさんが言うと、部屋がパァッと明るくなった。
「光魔法があれば、そんな訳の分からない光はいらないから」
「いやまあそうかもしれませんが、あったかいモノが食べたいって何ですか……」
「あったかいモノ知らない? ほら、あのハンバーグってヤツくらいのヤツ」
「それは知ってますけども、今から食べるんですね」
リュートさんはコクコクと頷いた。
まあそれくらいなら、と思って、
「じゃあ食器も木のスプーンも作りましたし、おでんにしましょうか」
「何でもいいから食べさせてくれ」
と言って、その場で立ち止まったリュートさん。
いやいや
「また手を握って、具現化魔法を使える状態にさせて下さい」
「あぁ、そうだった、そうだった。寝起きは特に面倒だなぁ」
そう言いながらあくびをしたリュートさん。
昼間はあんな嬉しそうに手を握ってきたのに、リュートさん、私の具現化魔法の有難さがリセットされたのかな?
寝ると何でもリセットされるほうなのかな? 豪華なベッドで寝ているくせに。
まあいいや、そんなことを考えている間にリュートさんが私の手を握って、具現化魔法を使える状態にしたので、私は大きな鍋をテーブルの上に置いてから、席に着き、大きめの鍋の前に手を広げた。
というかおでんのように具の種類がいっぱいあるモノとか一度に出せるのかな、と思いつつも私は詠唱し始めた。
「具材は大根、はんぺん、さつま揚げに、こんにゃく、玉子、それをまとめ上げるは昆布と鰹節でとった出汁。はんぺんやさつま揚げの練り物の旨味も出汁と混ざり合って、味にコクと深みが生まれる。その出汁を存分に吸った大根は口の中でとろとろになり、こんにゃくは独特の噛み応えで食感は飽きません。玉子も煮ると香りが溶け出し、食欲を煽ってくる。存分に感じる和の香りに気分は高まり、アツアツなのにどんどん口の中に放り込んでしまいます。いや! アツアツだから美味しい! おつゆと一緒に頂く玉子の黄身はよりまろやかになり、驚異の味変になり、他の具材も別の顔を見せます。具材はまだまだ入れたいところですが、今日はこの辺にしときましょう! おでん!」
その刹那、私の手から具材もおつゆもボドボド出てきて、何か「ヒャッ!」と私は驚いてしまった。
いや自分が出したんだけども、まさか本当に何も無い空間からおつゆと具材が出てくるなんて。
具材はまだしも、おつゆは何か変な気分だな、って思った。部屋の中にある結露がかたまったヤツなんじゃないかなとか思っちゃったから。
鍋の中にたんまり溜まったおでんはホカホカな湯気が立っていて、手が熱い。
なのですぐに引っ込ませた瞬間に、すぐさまリュートさんの手が伸びたので、私はその手を手で叩き落としてこう言った。
「ここはお玉ですくって、自分の器に移してスプーンで食べて下さい。アツアツなんですから素手でいこうとしないで下さい」
「大丈夫だ、湯気を見た瞬間に、すぐに、手に結界を張ったから」
「そういうことじゃないんですよ、料理って。私が盛りつけますから」
そう言って私はリュートさんの器にお玉で盛り付けてから渡し、
「ほら、こう盛り付けたほうが美味しそうに見えますよね?」
「まあ確かに」
「ささっ、私も盛り付けまして……」
「いや、ユイも食べるのかよ」
そうツッコんできたリュートさん。
いやそれは勿論
「味見しないといけませんから、一応ちゃんと思った通りの味になったかどうか、を」
「そうか、ただの食いしん坊だと思った」
いや食いしん坊はどう考えてもリュートさんだし、うん、私も食いしん坊だ、と思いながら私は箸で食べ始めた。
するとリュートさんが、
「何だその棒を扱って、何してんだ?」
「これは箸と言って、食べ物をこうやって切り分けて、掴んで、口に運ぶ道具です」
「このスプーンってヤツでいいじゃん。このスプーンというヤツも切れるし、ほら」
「私がいた国ではこうやって食べていたんです」
不可思議そうに私を見つめるリュートさん。
異文化交流感が半端無いなと思いつつ、私は無視して食べていると、
「その箸というヤツ、俺にも使わせろ」
「これは扱いが難しいですから、急には無理ですよ」
と言いながらも、渡さないこともおかしいので、菜箸を渡すと、まるで手品の練習のように箸を指の中で動かし始めた。
勿論、一向に上手く持ちそうな気配はない。ペン回しのほうが先にできそうだな、といった感じ。
「どうやるんだ、これ。面倒だな。やっぱりスプーンでいい」
そう言ってまたスプーンでおでんを食べ始めた。
まあ教える気も正直毛頭無いし、本人も面倒だと言って手放したから、まあいいやと思って、二人でおでんを食べていった。
結局、1キロくらいあったおでんは二人でペロリと食べきり、リュートさんはあくびをしながらそのまま寝室へ入っていった。
鍋洗うのはまた明日でいいや、と思って私も庭の泉で手を洗ったら、そのまま寝た。
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