陰キャの俺はオンラインショッピングで欲しいものを見つけられるか？

相川究

　くそ、くそ、くそ、と思いながら、俺、相川究(あいかわきわむ)は今日も大手通販サイトをスマホで高速スクロールする。
　休み時間の教室。ばかみたいで意味不明な笑い声が耳に入らないように。

　高校受験の当日、インフルエンザで寝込まなければ、こんな学校になんかこなかった。
　あほ高にきて唯一良かったのは、校則もゆるゆるで、休み時間にこうしてスマホを見ていても許されることくらい。
　俺のアカウントは、親から小遣いの入金されるバンドルカードと紐付けられている。履歴も特にチェックはされない。その範囲内でなら好きなものがタップひとつで簡単に買える。
「自分でお金の使い方や善悪を判断するのも勉強だから」と、小学生のときからずっと続いているスタイル。

　父親も母親も企業のやり手研究者だった。結婚するつもりはなかったけど、当時所属していた職場の上司は「人は結婚してこそ一人前」という時代錯誤な考え方の持ち主だった。
　しないと出世が望めないという、お互いの利害が一致しての結婚。
　結婚したら次は「やっぱり人間は子育てを経験しないと成長しない」云々とやられたのと、「研究者として自分の腹の中で子供が育つという興味深い事象を一度は経験したい」という母親の考えのもと生まれたのが、俺。

　臨月も臨月、生まれるその日まで働いていた母親から未熟児で俺は生まれた。高校生になった今も体は未熟なままで、身長は百六十そこそこだし、しょっちゅう体調を崩す。
　受験期にインフルエンザにかかっていたのも、元々の脆弱さと「持ってなさ」ゆえだ。

　腹の中で生命体を生成して満足したらしい母は、その後の子育てにはまったく興味を持てなかった。
「人にはそれぞれ向き不向きがある。細やかな愛情は注げない代わり、金銭的には絶対に不自由させない」があの人の誓いで、それゆえのバンドルカードだった。「自分でお金の使い方や善悪を判断するのも勉強だから」は、口実にすぎない。

　脳味噌より体に栄養が回る奴らばっかりなのか、教室の真ん中あたりではしゃいでいる奴らはみんな背が高い。俺とだと、大人と子供くらいの差がある。
　もちろん友だちなんて、未だにできない。だから俺は休み時間、もっぱらこうしてスマホを見て過ごす。
　そういえば、そろそろストックがないな。
　手早く冷食を検索して、ポチる。
　食事は親の雇った家事代行サービスの人が作っておいてくれるが、これは夜食用だ。たまにはジャンクなモノを食べたい、という気持ちを共有する相手すら、俺にはいないのだった。