優しくて冷たいあの人

可能性

　彼とはあの日から話していない。

　挨拶くらいは交わすが、彼は人気者ゆえに別の人と話す時間が多いのだ。今日もいつもと変わらず、彼は優しくて冷たい。

　彼の話を聞いてから、彼を見る目が変わった。ただの優しい人気者ではなくなった。だが、冷たい人間だとも思わない。どう言い表せば良いか分からない。簡潔に言うなら、優しくて冷たい。これだと思う。

　彼とはあの日から話していない。

　だが、彼について新しく知ったことが一つある。僕の友達の一人が彼の小学校の時の同級生だった。そこから得た情報だった。

　彼は、小学校の時いじめられていたらしい。

　今の明るい姿からは想像もつかない。いじめは、かなり酷いものだったらしい。いじめの理由は分からない。友達が言うには気づいたらいじめられていたとのことだった。

　だが、それを聞いて一つ思い至った。彼が人に興味を無くした理由。期待をしなくなった理由。どうでもいいと思うに至った理由、
もしかしたら、そのいじめが原因だったのではないだろうか。

　いじめは、人の醜い所が浮き彫りになる。普段、綺麗事を言っているような人が、平然と人を貶める。愛だの恋だの友情だの、それを謳っている人が根拠もなく陰口を叩く。そんなことをしている癖に、さも自分はいい人のように振舞って生きている。

　その様を見て、彼は他人を信じることをやめてしまったのではないだろうか。期待して傷つくのも嫌だから。初めから興味なんて無いと思うようになったのではないだろうか。

　なんて、これはただの僕の憶測。可能性を論じているだけだ。彼は最初からそうなのかもしれないし、本当はあの話もただの冗談だったのかもしれない。僕には分からない。

　彼は、クラスメイトに囲まれて笑っていた。今日も彼は人気者だ。