母ちゃんの宝もの

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「さて、」  母は、さゆりの手から缶を取った。 「もし見たければ、後でどうぞ。――とりあえず、ご飯食べよう」 「はい」  缶を奥に押し込む母を手伝って、さゆりは衣類を押さえておく。 「お母さん、」 「ん?」 「今日のご飯は何ですか?」 「色々作ったよ」  母は得意げに言った。その表情は、3人の息子にそっくりである。 「ロールキャベツに、ふろふき大根、あとサラダも用意したよ。もちろん、キュウリ多めね。それから、カレーとハンバーグとご飯。一応、煮物も作ったけど……ま、これくらいあれば、あの子たちは大丈夫でしょ」 「ふふ……ですね」 「和洋バラバラだけどね。子供の好みに合わせたら、こんなもんよ。あと、プリンとケーキも買ってあるよ。さゆりちゃんの分もあるから、よかったら食べてね」 「ありがとうございます」  タンスの引き出しを戻すと、母はニヤリと笑った。 「息子たちには内緒で、さゆりちゃんにはお土産のクッキーつき」 「ふふふ」 「ふふふ」  自然と笑いがこぼれた。 「でもね、たまにだからいいんだよ」  母はスッと立ち上がって言った。 「毎日作るのはもう、面倒くさくってダメだ。大体、いい大人なんだから、自分のことくらい自分でやってよ、って話じゃない?」 「仰る通りです」  さゆりも立ち上がった。 「コウが甘えたこと言ってきたら、蹴り飛ばしていいからね」 「はい」  笑顔で、とんでもない会話をする2人である。 「じゃ、私たちも行こうか」 「はい」 「男どもは、もう食べ始めてるでしょ。早くいかないと、全部取られちゃう」 「わっ、それは困る」  母に背中を押され、さゆりは部屋の外に出た。  最後に部屋を出た母が、後ろ手にそっと扉を閉める。  トン、と音がして、部屋の中はまた静寂に包まれた。  奥でずっと眠り続ける紙の束、母ちゃんの宝もの。 ~Fin.~
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