大麻家の子供たち

2/3
前へ
/18ページ
次へ
「母ちゃん、」  振り向けば、立っているのは長男のアキだ。  両手にキャベツを2玉持っている。 「今日はキャベツが安いよ」 「今日はキャベツは買わないんだよ」  母は首を振った。 「でも、1玉88円だよ。先週は162円だよ。今が買い時なんじゃない?」 「何でそんなに野菜の値段に詳しいのよあんたは……さすがキャベツ好きなだけあるわ」  遠い目をして息子を見つめる母である。 「あのね、安いからって何でも買えばいいってもんじゃないの。買い物は必要な時に買いなさい」  説教をしている母の後ろにあるショッピングカート。そこにキュウリを持った小さな手が伸びて――。 「あんたもね、コウ!」 「……しっぱい」  しゅん、と手が戻った。 「勝手にかごに入れないって、いつも言ってるでしょ」 「母ちゃん、キャベツは?」 「キャベツは買わないってば!」  前に後ろにツッコんで、忙しい母である。 「さくせんへんこう、」  そう言って、くるりと踵を返そうとしたコウを、何とか捕まえる。 「2人とも勝手に買い物しないで! 買うものは母ちゃんが決めます!」 「ねえ、母ちゃん」 とアキが言った。 「今度は何?」 「ハルは?」 「……」  そう言えば、末っ子のハルをまだ見ていない。  上の子2人は確保できた。そろそろ、こちらから探しに行く頃合いだろう。 「よし、ほら行くよ」  コウの手をつかみ、片手でカートを押した。アキがちゃんとついてくるのを確認する。  ふと、その足が止まった。 「おおきなくりの、きのしたで~」 「ハルだ!」  コウが楽しそうな声を上げた。  こうなると、なりふり構ってられない。  アキもコウもカートも丸ごと抱えると(!)、声のする方に駆けて行く。 「なかよくあそびましょう~」 「あ、ハルいた!」 「何!?」  急ブレーキをかけたのは、お惣菜コーナー。 「おおきなくりの、きのしたで~」 「あら、ハルちゃんお上手ね」  覚えたばかりの遊び歌を披露する息子、周りには心の広いおばさまたち。 「お歌、覚えたの?」 「ようちえんでうたったの」 「……」  白目をむく母。  が、しかしそれも一瞬のこと。すぐに黒目を取り戻して、ズンズンそちらに歩いて行った。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加