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「ハル! スーパーはお歌を歌うところじゃないって言ってるでしょ!」
「あら、大麻さん」
「すみません、ハルがご迷惑をおかけしました」
「いいのよ」
「元気が1番」
「ハルちゃん可愛いから」
「ママも大変ね、頑張ってね」
「すみません、いつもありがとうございます」
ショーを止められて、やや不満げなハルを抱えたまま、ペコペコ頭を下げる。
一方、母の監視を逃れた上の2人は――。
「コウ、キュウリ食べたいか」
長男アキ、何かよからぬことを考えているようだ。
「ほしい」
「もう1度チャレンジだ。母ちゃんが、河野のおばさんと話してるうちに」
「うん」
つまりはそういうこと。キャベツとキュウリをかごに入れる作戦は、上2人が結託していたのだ。
「じゃあコウ、さっそく――」
「聞こえてるよ!」
背後から母の声が飛んできて、兄弟はそろって身をすくめた。
「もう、帰るから! 勝手にどこか行かないで!」
「おおきなくりの~」
「ハルは静かにして! ほら、今日はハルの大好きな大根のお味噌汁にするから」
「だいこん! おおきなだいこん!」
「だから静かにしなさいって」
「母ちゃん、キャベツは――」
「キャベツはもういいの!」
母は大きく息を吸い、長々と吐き出した。
今年のクリスマス、サンタさんに分身の術をお願いしようかしら。
心の底からそう思う3児の母であった。
さて、月日は流れ。
ありし日から時は過ぎること、25年後。
おっさん――いや、いい大人になった大麻3兄弟のうち、アキとコウは、実家の一室にて瓶のふたと格闘していた。
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