第一章 そんな日もある

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「いただきます!」  あいさつとほぼ同時に食べ始めた私に、お父さんが「よく噛んで食べなさい」と言った。  そしてお母さんは「おかわりは自分でしなさい」と言う。いつもの光景だった。  私が二杯目をよそって食卓に戻ると、お母さんから声がかかる。  二杯目はそんなにがっついて食べることもないので、話をしながらになる。 「今日の試合はどうだったの?」 「それがねー、もう完敗。みんなもすっごく落ち込んじゃった」 「湊くんが打たれちゃったってこと?」 「そう。あいつも珍しくへこんでた」  両親は湊がエースピッチャーであることを知っているし、今日の試合の相手が強豪校だったということも知っている。 「そしたら、今夜もきっと練習するんだろうな」  お父さんが続いた。  お父さんの言う通り、湊はきっと夜にバットを振る。  帰り際に私が言った「ゆっくり休んで」という言葉はきっと届かない。  それからしばらく、今日の試合についての話をした。  相手の打線のこと、うちの守備のこと、基本的に分が悪い話ばかりになってしまう。  話しているうちに悔しさが込み上げてきた。  プレイヤーじゃないけど、私だってチームの一員なんだ。悔しくないわけがない。
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