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「一回り目は、様子を見たって感じだったよ」
「そうだな……。なんていうか、気迫みたいなものはなかった。余裕をもって球筋を見られていたっていうか」
「それで二回り目にしっかり打ってくるんだから、たいしたもんだぜ」
湊は一年生の秋季大会で活躍して、そのときからこのチームのエースピッチャーになった。
冬を越えて速球も変化球も磨きがかかって、チーム内でも湊の球を打てる人はほとんどいなかった。
「でも、これで諦めるわけにはいかないでしょ。練習するしかないよ」
私はどうにかして二人を奮い立たせようと、意識して大きな声を出した。
私の発言に反応したのは遥人だった。湊は黙って下を向いている。
「そうだよな。夏の県予選まで、まだまだ時間はある。監督に話して練習試合をもっと増やしてもらって、実戦を積もうぜ」
「ああ……」
遥人の表情には明るさが戻っているように見えたけれど、湊はまだ沈んだままだ。
この状態のまま帰りたくはなかったから、私は立ち上がって遥人のバットケースを手に取った。
「庭坂、なにするんだ?」
「ちょっとバット借りるね」
私がバットを握ってグラウンドに出ると、湊は顔を上げて私を見る。
締まりのない顔だ。私がなんとかしなくちゃ。
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