第一章 そんな日もある

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「……いくぞ」  湊はそれだけ言って、ゆっくりと振りかぶった。  綺麗なワインドアップモーションに、思わず見惚れそうになる。 「きゃっ」  湊の手から放たれたボールは、一瞬のうちに遥人のミットに到達していた。  ボールが空気を切り裂くような、シュルルルって音と、ミットに収まったときの叩きつけるような音。  こんな球でも打たれちゃうんだ。 「ナイスボール!」  遥人の大きな声が、静かなグラウンドに響いた。  まったく手が出せなかった私だけど、今の一球がすごくいい球だったということはわかった。 「いい球投げるじゃん」 「バットを振ってから言えよ」 「手が出せないくらいのいい球だってことだよ」  私はただのマネージャーで、野球の経験があるわけじゃないから、当然打てるわけもないのだけど、もうちょっと反応できると思っていた。  悔しいけど、遥人の言う通りだ。 「まだやるのか?」  遥人が投げ返したボールを受けた湊が、マウンド上でそう言った。  そのときの表情はさっきと全然違っていて、生き生きとしたものだった。 「ううん。もういいよ。満足した。そろそろ帰ろう。私、おなかすいてきた」  私がヘルメットを外してバッターボックスから離れると、二人はなんだか物足りなそうな顔をしていたけれど、そのままベンチへと戻っていった。
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