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「……いくぞ」
湊はそれだけ言って、ゆっくりと振りかぶった。
綺麗なワインドアップモーションに、思わず見惚れそうになる。
「きゃっ」
湊の手から放たれたボールは、一瞬のうちに遥人のミットに到達していた。
ボールが空気を切り裂くような、シュルルルって音と、ミットに収まったときの叩きつけるような音。
こんな球でも打たれちゃうんだ。
「ナイスボール!」
遥人の大きな声が、静かなグラウンドに響いた。
まったく手が出せなかった私だけど、今の一球がすごくいい球だったということはわかった。
「いい球投げるじゃん」
「バットを振ってから言えよ」
「手が出せないくらいのいい球だってことだよ」
私はただのマネージャーで、野球の経験があるわけじゃないから、当然打てるわけもないのだけど、もうちょっと反応できると思っていた。
悔しいけど、遥人の言う通りだ。
「まだやるのか?」
遥人が投げ返したボールを受けた湊が、マウンド上でそう言った。
そのときの表情はさっきと全然違っていて、生き生きとしたものだった。
「ううん。もういいよ。満足した。そろそろ帰ろう。私、おなかすいてきた」
私がヘルメットを外してバッターボックスから離れると、二人はなんだか物足りなそうな顔をしていたけれど、そのままベンチへと戻っていった。
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