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「へぇ、いいカーブ放るじゃん」
「う、うん。試合で投げるの、これが初めてなんだけど」
私が初球の記録をスコアブックに書くのとほぼ同時に、隣から声がかかった。
私はその言葉に自然に反応した。
実況と解説者のような間合いだった。
バックネット裏には私しかいないはずだけど、声を聞いてそこにいるのが誰なのか、すぐにわかった。
私は必死に驚くのをこらえて、ゆっくりと隣を見る。
「お兄ちゃん!」
「おぅ」
私の動揺はやっぱり無視で、食い入るように試合に注目するお兄ちゃん。
気付かないうちに湊の投球は進んでいて、二球目と三球目の記録をつけ損ねてしまった。
カウントは一年生がベンチ横でスコアボードとともに表示してくれているので、状況は把握できても記録ができない。
「二球目はまっすぐが外れてボール、三球目もまっすぐでストライク」
私の手が止まっているのに気付いていたのか、お兄ちゃんが教えてくれた。
お兄ちゃんの声は私にしか聞こえていないはずなので、返事はしないで記録だけを済ませる。
それからは隣のお兄ちゃんと目の前の試合を交互に気にしながらだったので、あんまり集中できなかった。
いや、集中し過ぎていて、考える余裕がなかったというのが正しい。
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