第三章 外角低めのストレート

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 それに、リズムに関しては、私は全然気付かなかったというか、気にしてなかった。  本人たちは自覚できているのかな。 「あのキャッチャーのリードはなかなかよかったな。カーブはあんまり要求しないで、見せ球にしておけばいい」  今度は褒めてくれたけど、それが湊のことじゃなくて遥人のことだったので、なんとなく悲しくなった。 「ほ、他には? 湊の投げる球で何か良かったところは?」  だから私は、半ばすがるような気持ちでこう聞いた。  さっきまではスコアブックも書きながら話を聞けたけど、そんな余裕はなくなっていた。 「そうだなぁ。あのチェンジアップは、リリースがもう少しうまくなれば、十分決め球として使えるな。まぁ、それがなかなか難しいんだけど」 「リリース? 難しいの?」 「リリースってのは、ボールを手から放す瞬間のことだ。チェンジアップは、ストレートを投げるときと同じような腕の振りで投げないと効果がない。球の遅さでタイミングをずらすんじゃなくて、速い球がきたと思わせないといけないんだ」 「それは、練習すればできるようになる?」 「もちろんだ。むしろ練習するしかない。カーブのコントロールなんてアバウトでいいから、とにかく腕の振りだな」 「そうなんだ……」  私は力なくそう答えるしかできなかった。  今日の湊のピッチングなら、もっと褒められるというか、前向きな言葉がもらえるものだと思っていたから、結構ショックだった。
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