第一章 そんな日もある

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「わっ」 「おっと、わりぃ」 「急に止まらないでよ」  湊の背中を見ながら歩いていたはずだけど、まさか湊が待ってくれるわけもないと思っていた私は、坂を上りきったところで立ち止まった湊に思いっきりぶつかってしまった。  不意に出た湊の言葉からは、あまり謝意は感じられない。 「…………」  湊は立ち止まったっきり黙っている。そんな湊の視線の先を追う。  ちょうど陽が沈むところだった。 「きれいだね」  何度も見ている景色ではあるけれど、だからと言って見飽きるものじゃない。  タイミングによって抱く感想は変わるけど、今の私にとっては、何も考えずに見ていられる素敵なものだった。 「……なぁ」  それなのに、湊は私の言葉に対するコメントはなく、遠い目をしたまま私に語りかけるだけだった。  悩んでいるときのこの言い方に、私は曖昧な返事だけをして続きを促す。 「さっき俺が投げたまっすぐ、本当にいいボールだと思ったか?」  予想通りの言葉だった。  湊がこんなふうに思い悩むとしたら、野球のことしかない。  私もそうだけど、湊は本当に野球が好きだ。
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