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「うん。正直びっくりした。バッターボックスに立って湊のボールを見るのなんて、すっごく久しぶりだったし」
これは別にお世辞とかじゃない。
ベンチから見るボールもすごいと思っていたけど、バッターボックスから見るとその比じゃなかった。打てそうにないと、素直に思った。
「それでも、打たれちまった」
今度は悔しそうな顔で、湊は言った。
完全に今日の試合を引きずっている。
こんなとき、どんな言葉をかけたらいいんだろう。
こんなに打ちひしがれる湊を見るのは初めてで、迂闊なことは言えないと思った。
「そんな日も、あるよ」
あんまり黙り込むわけにもいかないと思った私は、咄嗟にこう言った。
さっきは練習するしかないって言ったけど、そんなことは湊だってわかってるはず。
具体的な野球の話だって、私が思いつくことなんてたかが知れている。
だからと言って、もっと他に言うことがあるような気もしたけど、私のこの言葉に、湊は呆れたような表情だけど、それでも笑ってくれた。
「……またそれか」
これは私のお兄ちゃんの口癖で、お兄ちゃんは何かあるたびに「そんな日もある」と笑い飛ばしていた。
そのときのお兄ちゃんの笑顔が好きで、私もこの言葉は好きだった。
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