第1章 山水神村の竜族

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15年前、東北にある男土山と女水山の山間にある小さな小さな集落で3150gの男の子が産まれた。 それが僕「山上 楽(ヤマガミ ラク)」、15歳である。 その集落は、標高1000mを超える高地なのだが、男土山と女水山との10㎢に及ぶ山間部分の平坦な敷地に住む集落である。 30年前は、そんな辺鄙な土地に50世帯以上が住んでおり、山水神村と言う地名だったが、年々人口が減少していき、今では10家族しか住んでいない。そのため、山水神村は他の村と合併して地図から村の名前が消えてしまった。 ただ集落内では以前の様に山水神村と呼んでいる。 集落には辛うじて電気は通っているが水道は通っていない。それでも両脇にそびえる山から湧き出る水が村に流れてきているので、水に不自由な思いをした事は無く、その湧き水のおかげで生活の基盤である農業を営めるのだった。 収穫量は少ないのだが、ここで作られる農作物は品質が良く高値で取引されている。 そんな環境なので全員が農地を耕し、店と呼ばれるものはこの土地には無い。勿論、診療所も無いので医者もいない。昔はお産婆として村の子供をとりあげていた老婆がいたので、僕がこの村で生まれる事ができたのだが、その老婆も僕が5歳の時に亡くなっている。 今では医療の知識がある者はおらず、村の人が病気になると母がその人の家に行き、タオルに水を浸して患部を冷やしてあげたり、食事を作りに行ってあげたりして身の回りの世話や看病をしているらしい。 それでも治らない場合は、母さんが車で町に連れて行くのだと言う。 ここ何年も母さんが町まで村人を送る事は無いと言うから信じがたい。 何故、母さんが? 幼かった僕はそう思っていたが、この集落は僕の母以外は70歳以上の高齢者ばかりであり、明らかに一番若い母さんが村人達の面倒をみるのは、今では必然的な事だと理解している。 そのせいか、僕達は集落の人から大事に大事に見守られながら育っていた。 勉強については、元教師だった藤山おばさんが村から承認を受けて臨時教師として、しばらく使用していなかった学校を利用して授業が行われた。 学校に至っては、集落の人達が使用されていなかった校舎を、全員で直してくれて、手作り感いっぱいの教室が出来上がった。 村の人達のおかげでスクスクと元気に育った僕も中学3年生になった。
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