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悪戯を持ちかける笑みを姫君が見せると、夏木は少しはにかみながら顔をほころばせて頷いた。それは姫君の共犯者としての表情だった。
「では、行ってまいります」
もはや迷いもなく立ち上がり、姫君の笑みに見送られながら庭へと向かう。
夏木は急いで自分の心に応えようとしてくれるだろうと姫君は分かっている。
「楽しみだわ……夏木」
こぼれた呟きは姫君の瞳を玉虫色に見せた。
二人、向き合いながら吸う蜜の甘さは、二人だけの時間をどれほど甘くさせるだろうか。
しばし遠ざかる足音を聞きながら、姫君は禁断の蜜に思いを馳せた。
*
その頃、内裏の宿直所では、まさに男達による姫君についての噂がされていた。
大納言を父にもつ十八歳の少将と、左大臣を父にもつ同じく十八歳の宰相の中将、それと上達部により、姫君のつれなさに嘆きの声をあげるものもあった。
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