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御簾の奥深く、張り巡らされた几帳の陰に身を横たえながら、左大臣の姫君は趣向を凝らした文を物憂げに握り潰し、寵愛している女童を呼び寄せた。
文は兵部卿の宮が何度となく伝手を頼ってもたらしてきているものだった。
それをうんざりしたように反故にする眼差しは十四歳という少女のあどけなさを微塵も感じさせない冷たいものだった。
「夏木」
「はい、大君様……夏木はこちらに」
「私と二人きりの時は名前で呼んでいいと許しているでしょう?」
「はい……清様」
夏木がこころもち頬を染めて応じると、名前で呼ばれた姫君はうっとりとした微笑みを浮かべた。
「そうよ……いい子ね。もっと近くに来て、よく顔を見せて」
「はい……」
夏木は衣擦れの音をさらさらと立てながら、そっと姫君の吐息さえ感じられるところまで進み出た。その動作はためらいがちなようでいて物慣れていた。
姫君は夏木の産毛だった桃のような頬を、白くひんやりとした指で撫で、ふと微笑みを深めた。
「お前の肌は指が吸いつくようね……ねえ、今のお前のお気に入りは何?」
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